松田志乃ぶ

悪魔のような花婿 ダイヤモンドは淑女の親友

「そ、そういえば、わたし、パイ作りの途中だったのです。もうパン焼き室に戻らなくては」 「後にしなさい。私はパイよりもあなたの甘い唇を所望する。私のキスを受けて日向に置いたバターのようにとろけ、恍惚と崩れ落ちるあなたの可愛い顔が見たいのだ」 …

嘘つきは姫君のはじまり 千年の恋人

「いい加減にしてくれ、東宮と二条の姫の誘拐騒ぎだけでも頭がいたいのに、あと二つも大きな面倒が起こっているだと?悪い冗談にもほどがあるぞ……!」 終わってみたら、この誘拐劇があったからこそ、宮子と次郎君、そして真幸は、心に折り合いをつけることが…

嘘つきは姫君のはじまり 初恋と挽歌

「それは馨子さまがわたしに教えてくださったのですわ。不運と不幸は別物だって」 「そうね。きまぐれな神さまがどんなに辛い仕打ちをしてきたって、うつむいて生きてはいけないのよ。恨みを胸に凝らせて、自分から不幸になってはいけないの」 秘密を明かす…

悪魔のような花婿 薔薇の横恋慕

「知りませんわ。もう、ウイリアムさまなんてだいきらい!」 「本当に私を大嫌いなのかな、奥さん?」 「そうですわ」 「本当のことを言わないと、あなたの大好きなキスをしてあげないぞ」 「もう。……もちろん本当はその反対ですけれど」 気がつくといちゃつ…

嘘つきは姫君のはじまり 少年たちの恋戦

「そばにいても苦しいばかりと京を離れましたのに、面影は薄れることもなく……これ以上は逃げる場所もありません。どこへいっても、どれだけ遠く京から離れても……こころに浮かぶその面影そのかたへの想いからは、どのようにしても逃げられないとわかったので…

悪魔のような花婿 遅れてきた求婚者

「こちらへおいで、愛しい人」 ウイリアムはジュリエットを導き、寝台のそばの卓の近くへと座らせた。 寝台を出たウイリアムが暖炉のそばからとってきたのは、出したままにしていた鏡だった。 「ごらん、ジュリエット。あそこにいるのが私の世界で一番愛する…

嘘つきは姫君のはじまり 寵愛の終焉

さようなら。宮子は目を閉じ、こころの中でつぶやいた。 (さようなら、次郎君。― さようなら、わたしの恋) 東宮の言葉攻めが何と……。暴走気味な東宮はさておき、愚かかもしれないと思うこともあるけれど、苦しく、それでいて幸せだという恋模様は、見てい…

悪魔のような花婿

「こら、泣くな、ジュリエット。私は妻を泣かせるためではなく、笑顔にさせるために贈り物をしたのだぞ?」 「だって、だって、ウイリアムさま……」 「フン、今の『だって』は新妻らしく、甘えた感じで可愛いな、気に入った。もう一度言うのだ、ジュリエット…

嘘つきは姫君のはじまり 東宮の求婚 平成ロマンティック・ミステリー

「では話せ。斎、おまえの売りたがっている情報とはなんだ」 秘密さ。斎の言葉に那智王がけげんな顔をする。 「おれがいま手にしているのはね、那智王、ある乳姉妹の秘密なんだ……」 乳姉妹の秘密から脅しが始まって、宮子はほんと大変だったと思うけど、腹黒…

嘘つきは姫君のはじまり ふたりの東宮妃 平成ロマンティック・ミステリー

「おまえはたぶん、自分のことを、主人であるこのわたしのトンデモナイ運命に巻き込まれてしまった不運で災難な人間だと ― 自分はすべての騒動の、いわば脇役にしか過ぎないのだと思っているのでしょうね。だけど、ひょっとしたら、そうではないかもしれない…

嘘つきは姫君のはじまり 姫盗賊と黄金の七人(後編) 平成ロマンティック・ミステリー

「だが、和泉。おまえは竜田の容疑がもっとも濃いことを指摘していたんじゃなかったか?」 「ええ、そうよ。いったでしょう、わたしは誰でも疑うと。疑ってそしてわたしは判断したの。竜田は犯人ではないとね」 蛍の宮のツンデレっぷりやヤマトタケル作戦に…

嘘つきは姫君のはじまり 姫盗賊と黄金の七人(前編) 平成ロマンティック・ミステリー

「賭けものの商品は春秋党二代目の座。舞台は花の後宮!こりゃ、めったにできない、贅沢で危険な遊びだね。五頭領、代理戦争の始まりだ」 盗賊団の二代目就任争いに巻き込まれて、馨子と宮子が分断されてしまいましたが、馨子方面では殺人事件が、宮子方面で…

嘘つきは姫君のはじまり 恋する後宮 平成ロマンティック・ミステリー

「蛍の宮さまはお気に召されぬようでしたけれど、女御さまは、まあ、ご性格はともかく、お頭のほうは申し分なく賢いかたでいらっしゃるのですわ。その賢い女御さまが起こされた狂言ですもの、裏には何やら深い事情が隠されているのでしょう。 ふふ……面白いで…

嘘つきは姫君のはじまり 見習い姫の災難 平成ロマンティック・ミステリー

「わたしのカンでは、これは大きな好機よ、宮子。うまくいけば、災い転じてなんとやら、になるんじゃないかしら。幸運はいつでもやさしい顔をして近づいてくるとは限らないわ。賽の目の一もひっくり返れば六になる。すべてがとんだ災難で終わるか、思いがけ…

嘘つきは姫君のはじまり ひみつの乳姉妹 平成ロマンティック・ミステリー

「教えるべきこと……?」 「もちろん、人生の楽しみかたと、上手な嘘のつきかたよ」 牛車に乗り込みながら、馨子は悪戯っぽく片目をつむって見せた。 「くちびるに紅を、舌にはちょっぴりの嘘をのせて、女の子はきれいになるのよ。おぼえておきなさい、宮子、…