そんな日もある

公式SSを参考にして、書いてみました。
実話とは大きく異なります。


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先輩が大阪にくるらしい。

好きな作家の講演があるから。そう言っていたけれど、普段は面倒くさがって出かけようとしないのに、変なところでフットワークが軽いから、よくわからない。

ただ、普段の行動範囲でさえ、道に迷 ―― 急に寒気がした、ええと目的地へたどりつくのに、人より若干時間を要する人が、足を踏み入れたことが無い大阪で目的地までたどり着けるのだろうか。と、大阪来訪のメールを読んだとき、心配していたら、メールの最後が命令で終わってた。

『駅まで迎えに来て、会場まで案内しろ』

……きちでる。

たまたま予定が空いていたのは、運がいいのか悪いのか。

そして迎えた当日は、なぜか晴天だった。雨だったら、「誰かさんがやってくるから!」と、いつも言われている仕返しができたのに。ちょっと腹立たしく思いながら、駅まで迎えに行く。仕方なく。本当に仕方なく。予定より30分も早く到着してしまったのは、時間前行動を心がけているからです。遅れたら文句言われるし。

時間まで本でも読んでいようと思っていたけれど、なぜか集中できないのは、人を出迎える経験があまりないからなんだろうか。ページの進まない本をテにしつつ、ちらちらと改札を見ていたら、ようやく先輩が現れた。あの赤いネクタイを見間違えるわけがない。

人ごみに流されて、あさっての方向に進んでしまった先輩を追いかけて、後ろから声をかけようとしたけれど、妙に落ちつかない感じで、きょろきょろしてる先輩を見ていたら、なんだか楽しくなってきた!普段見られない姿は新鮮だ。……先輩だけじゃなくて、ぼくもちょっと冷静じゃないみたい。

先輩がiPhoneを取り出したところで、そろそろ姿を見せないとやばいと思って、そっと近づいたらあっさり見つかった。

「先輩、お久しぶりです」
「出迎えご苦労」

さっきまで不安そうだったくせにこの態度!やっぱり先輩は先輩だ。

「で、ここからどうやっていくの?」
「……もしかして、まったく調べてないんですか?」
「案内人がいるのに調べるなんて手間じゃないか」

置いていってやろうかと思った。

会場まではいくつか電車を乗り継ぐことになる。何通りか行き方はあるけれど、今の時間なら……地下鉄のほうがいいかな。電車内で感想を書いていたという先輩の話を聞ながら(バカじゃないだろうか!)、駅構内を歩いて地下鉄に向かう。「おお、エスカレータで立つ位置が違う」と声が聞こえたが無視。

改札を通ろうとして、先輩は切符を買う必要があることに気づいた。

「**までいくので切符を買ってきてください」

途端に顔をしかめる先輩。もしかして……

「ついていったほうがいいですか?」
「子供じゃあるまいし!」

そのわりに不安そうなのは、なんでだろう。

順番待ちをしている間、何度も料金表を見てる。しかも、順番がまわってきたら、ボタンの上を手がさまよってる……

「もしかして、買い方がわからな」
「だまれ」

あたふたしてる先輩を見てるのは楽しいんだけど、さすがに並んでる人たちの視線が……と思って、後ろを振り返ったら、みんな目をそらしてた。そりゃまあ、見た目からして鬼畜そうな人に、文句を言える人なんていないよなあ。

先輩に目を戻したら、ようやく切符を買えたらしい。って、それ、ICOCAじゃないの!?

「なんでそんなの買ってるんですか?わからなかったら聞いてくれれば」
「いいんだよ!こういう奴のほうが便利なんだから」
「いやでも、」
「それに、また会いに来ることあるだろうし」
えっ?

どういう意味かを尋ねる前に、先輩は歩き出した。

「さあイけ、こんこん、お前が先にイかないと、俺がイけない」
「あんた最低だな!」

このエロ魔王が、と呟いたら、先輩はニヤニヤしながら手を伸ばし、僕の髪をくしゃくしゃにした。