ナラタージュ
大学二年の夏、高校時代の恩師から電話があった。部活の顧問の葉山先生。
後輩の手伝いをしてほしい。その言葉でその口調で、私は時間を戻してしまった。
君だけじゃない。誰の気持ちにも応えられない。
そう言われたあの時の気持ちに戻っていく・・・・・・。
物語全体に漂う不安感をなんと表現したらいいのだろう。
何気ない表現に、何気ない描写に、何気ない会話に、
気がつけば引き込まれ、気がつけば不安になっていく。
互いを求め合い、それ故に別の道を歩く。
表面上の静けさに騙されてはいけない。それは、氷山の一角でしかないのだから。
そして私は痛烈に実感する。
この人からはなにも欲しくない。ただ与えるだけ、それでおそろしいくらいに満足なのだ。
これが主人公の気持ちのすべてだと思う。
最後のシーンで受けた痛み。その幸福感と苦しさを思うだけで、静かに涙が流れてくる。
傑作です。