砂の女

休暇をとり砂丘へ昆虫採集に出かけた男。そこは砂に埋もれかかっている家だらけの村。
生憎と獲物は見つからなかったが、部落の住民は親切にも一夜の宿を与えてくれた。
村の外れにあるその家は深い穴の中にあった。梯子を降りた先にいたのは、妙齢の女性。
だが、天井から、壁から砂が舞い降りてくる家。一晩の辛抱と思い、男は眠りにつく。
だが、それは悪夢の始まりだった。目覚めた男は閉じ込められたことに気づいたのだ……。


何が一番恐ろしいかといったら、人の心ほど恐ろしいものはない。
男が閉じ込められたのは、砂をかくための人手が足りないという、ただそれだけの理由。
あらゆる手を使い逃げようとする男。だが、今まで逃げられた人間はいない。
やることは無い。寝てるだけでも砂にまみれる。いつしか砂をかくことに疑問を抱かなくなる。
疑問があってもそれが長続きしない。


孤独とは、幻を求めて満たされない、渇きのことなのである

そして男の思考が描写された最後の文章。鳥肌が立つほど恐ろしかった。
これはほんとにフィクションなのか。それほどまでにリアル。
サスペンスあふれる展開とイメージを容易に喚起させる文体。
名作とは古くならないものだ。そう思わせる物語。


砂の女 - 安部公房