落日悲歌・汗血公路 アルスラーン戦記(3)(4)

パルスの隣国シンドゥラでは、即位を求め王子二人の対立が起こっていた。
パルスを叩くことは世論を手に入れることでもある。
そんなシンドゥラの動きを見たアルスラーン一行は、王都を取り返す前にまず後方の憂いを絶つことにした。
王子二人の対立にケリをつけさせ、内政に集中してもらう。
ナルサスの策略をもとに、アルスラーン率いるパルスの騎士たちはシンドゥラに向かった……。


「右か左か、というやりかたは、ナルサス流ではございません。右に行けばこうなる、左に行けばこうなる、それぞれの行末について考えておくのが私のやりかたです」
その策略にかなうものはいないのか。やっぱり、頭のいい人ってのはかっこいいわけよ。
誰派かと聞かれたら即答するね。「ナルサス派」と。


ナルサスに、というか仲間の誰と比べても、アルスラーンは決して有能とは言えないかもしれない。
でも自らの未熟を認め、素直に学ぶ。努力をする。
だからこそアルスラーンの周りには人が集う。


玉座には、それ自身の意思はない。座る者によって、それは正義の椅子にもなるし、悪虐の席にもなる。神ならぬ人間が政事をおこなう以上、完璧であることもないが、それに近づこうとする努力をおこたれば、誰もとめる者がないままに、王は悪への坂を転げ落ちるであろう。王太子殿下はいつも努力しておられる。そのことが、つかえる者の目には明らかなのだ。かけがえのないお方と思うゆえに、みな喜んでつかえておる」
ファランギースの言葉がすべてを表現している。


そんなアルスラーン戦記は既に何度も読み返しているけれど、必ず涙ぐんでしまうシーンがある。
本作に登場するあのシーン。


ダリューン
「は?」
「私は、いったい誰なんだろう?」


このときのアルスラーンの葛藤を思い、それに対するダリューンの言葉を聞いたとき、
思わずダリューン派になってしまおうかと思うぐらいに感動させられる。
たしか角川文庫版では、このシーンでアルスラーンの挿絵があったんだよなあ(うろ覚え)。
それがものすごく印象的だったので、カッパノベルス版でもほしかった。
丹野忍さんのイラストも悪くないだけに残念。


物語は最後の最後で囚われの王、アンドラゴラスが動き始めたところ。
ここからパルスの亀裂が入るシリーズ第三、四巻。


落日悲歌・汗血公路 アルスラーン戦記(3)(4) - 田中芳樹


次作の感想: 征馬孤影・風塵乱舞 アルスラーン戦記(5)(6)
前作の感想: 王都炎上・王子二人 アルスラーン戦記(1)(2)