春に来る鬼 骨董店「蜻蛉」随縁録

「化け物退治のヒーローであるしっぺい太郎は犬よ。山犬なの」
くすくす笑いながら、淳之介が説明し始めた。
「今から七百年前っていうから、鎌倉時代ね。現在の長野県の駒ヶ根の光前寺に、早太郎っていう山犬の血を受け継いだ犬がいてね。寺の裏山に棲みついていた化け物を退治したほど強かったから、不動明王の化身の霊犬としてあがめられていたの」
そのころ、静岡の磐田から化け物が恐れる「信州信濃のしっぺい太郎」を探しに来ていた社僧、一実坊弁在は噂を聞きつけ、早太郎を借り受けたのだという。
「それ、おかしいじゃないですか」
瑞穂が反論の声を上げた。しっぺい太郎という名を頼りに探しに行ったはずなのに、なぜ、早太郎と呼ばれる犬を連れて帰ってこなければならないのかと。
「瑞穂ちゃん、いいトコ突くわね。そういう素朴な疑問から、民俗学の研究が始まるのよ」

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