橘香いくの

ブランデージの魔法の城―魔王子さまと時の扉

「以前のそなたは、魔術師の妻になるなどお断りだと申していたが」 「あなただって、愛なんてたわ言だって言ってたわ」 アドリエンヌは、やりかえした。 「わたしが間違っていたと認めよう」 ドナティアン・シャルルは、彼女の額に軽いキスをした。 「たしか…

ブランデージの魔法の城―魔王子さまと冥界の罠

「不肖の弟子よ。一つ、おまえさんの役に立つことを教えてやろう」 「拝聴します」 「おまえさんが悪い」 「は?」 「嬢ちゃんとケンカしたときは、みーんな、おまえさんが悪いんじゃ」 良かれと思ってしたことからすれ違う様には、ニヤニヤしちゃう。どんな…

ブランデージの魔法の城―魔王子さまの帰還

「まちがいだと気づいた時点で、過去は変わります」 「過去は変えられぬ」 「いいえ、変えられます。心が変えるんです。思い出とむきあったとき、どんな感情がうかびますか?憎しみ?後悔?愛おしさ?それとも感謝の気持ち?心が変われば、過去の風景も変わ…

ブランデージの魔法の城―魔王子さまの最強の敵

「アドリエンヌの弱点とはなんだ?」 ―無論、あなたのことだ。 王子は一瞬、言葉をなくした。すると、ゲルガランはおかしそうにつけくわえた。 ―つまり、あなたの弱点と同じだ。 やばいぐらいニヤニヤです。想い合ってるのに、愛とはなんぞやとか思ってる王…

ブランデージの魔法の城—魔王子さまと鏡の部屋の秘密

「……そなた、アドリエンヌではないな?」 「まあ、そんな!」アドリエンヌは心外そうに声を上げた。 「なぜ、そんなことを?わたくしはアドリエンヌですわ」 ドナティアン・シャルルはすっかり合点し、ため息をついた。 「……なるほど。あのあわて者が、また…

ブランデージの魔法の城―魔王子さまの嫁取りの話

「わたしはそなたが気に入ったのだ。なるほど、確かにそなたは頭が固い。強情でなかなか意志を曲げぬ。しかし少なくとも、平凡ではない」 そして王子は、ニヤッと笑った。 「なにより、わたしはそなたといて退屈したことなど一度もないぞ」 自分勝手な魔法使…

日曜日には探偵を 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(18)

「ほんとにもう。わたしが好きでこんなことしてるとでも思ってるの?これでも忙しい身なんですからね。ボナバンが困ってなかったら、やらないわよ。オンボロ事務所の探偵役なんて」 「思いっきり顔が笑ってるよ、コラリー」意地をはって探偵するコラリーが巻…

盗まれた蜜月(後編) 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(17)

「茶化さないで。わたしが言いたいのはそんなことじゃなくて……」 腹立たしげに言いかけて、コラリーはふと真顔になった。 「あなたが不幸になったら、亡くなったお父さんやお母さんが悲しむわ」 「……」 「あなたを愛してる人のために自分を大切にするって、…

盗まれた蜜月(前編) 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(16)

「いったいおまえさんは、あれで何をしでかすつもりだ?ローランス銀行から金庫でも釣りあげるつもりかね」 「もっと価値のあるものですよ」 シュシナックは、思わせぶりに微笑んだ。 「ある女性の愛をね」 シュシナックがここまで本気になるとはなあ。それ…

緋色の檻(後編) 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(15)

「嘘ついたら許さないから」 「ぼくは嘘はつかないよ」 「どうかしら。自分をごまかすのはかんたんだもの」 「でも、きみをごまかすのは至難の技だ」 フェリックス母の真実が見えるお話。花に例えた恋人たちのやりとりがとてもよかった。しかし、シュシナッ…

緋色の檻(前編) 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(14)

「それにしても、クレメンタインが夫の恋人をさがしだして、どうしようっていうのかしら?まさか、九年も経って復讐しようなんていうんじゃないでしょうね」 「そうはずれていないかもしれません。ただし、あなたの思ってらっしゃるような意味ではありません…

踊る王宮の午後 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(13)

「こたえたくないなら、それでもいいさ。だが、これだけは言っておくよ。わたしは彼女を連れていく。とられたくなければ、さっさと帰国するんだな。わたしはもう、遠慮はしない。手段も選ばない。これは宣戦布告だ」 幼い頃のコラリーと母のエピソードを通じ…

影の姉妹 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(12)

「アニエスは、リゼットさんにとって家族だったんでしょ?だったら、彼女を命がけ手心配しても、べつに不思議はないわ」 コラリーは、わざと気楽そうに言った。 「そういうの、よくわかるわよ。だって、フェリックスがこの無神経な口でみんなに迷惑をかけて…

黒い塔の花嫁 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(11)

「ねえ、モイーズ。あなたがわたしを信じてくれてるんなら、協力してちょうだい」 「なにをなさるんですか?」 「幽霊を捕獲するの」 フェリックスの歪んだ思いが見えたけど、コラリーの思いに当てられて、ちゃんと向き合ってくれると思いたい。遠回りの果て…

ローランスは猫日和 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(10)

「そうじゃないよ」 「じゃあ、なんなのよ?言い訳できるもんなら、してみなさいよっ!!」 「僕の愛は刑法上の解釈を超えるんだ」 「ば、馬鹿ーーーーーーーーー!」 フェリックス最高!叔母さんもいい味出してました。初めてのうふふは、とってもニヤニヤで…

ローランスは猫日和 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(9)

どうしたことだろう?あの粘り腰のババアが、いやにあっさりひきあげたではないか?いや、そもそも、彼女はいったい何をしにやってきたのだろう? テランスの空色の瞳が、また険しい光を帯びた。 「……あのクソババア。まだ何か企んでやがるな?」 コラリー大…

革命はお茶会のあとで 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(8)

「そんな馬鹿な。じゃあ、いったいどうしてあんなことを?」 「コラリーだから仕方ないんだ」 フェリックスは、まるでそれが絶対的な真理であるかのように言った。 「忘れてるなら、念のために思い出させてやるけど……彼女をこの件にひきこんだのは、あんたの…

ふたりで泥棒を 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(7)

「お嬢の暴走をとめるのは、てめーの役目だろうがっっっ!!なんだって、二人そろってあらわれるんだよっ!!」 「今回は暴走じゃないんだ」 「どうしてそんなことが言える?」 「ぼくもいっしょに走るから」 「だあっ!最悪じゃねえか!」 惚れた弱みが見えてニ…

奈落の女神 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(6)

「それでね、わたしたち、アルカイス人を捕まえる方法を考えてみたんだけど……」 フェリックスの片眉が、ピクリと動いた。 「わたしたち?」 「コルニュさんとわたしよ、もちろん」 「わたしたち」に反応するフェリックスが楽しくてしょうがない。それにして…

翡翠の眼 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(5)

「なるほどなあ。あの子はあの子なりに考えておったわけだ。フェリックス君、わかってやってくれんかね。子供の成長はとめられんものだよ」 フェリックスはこたえなかった。ローリエはまた言った。 「子供はいつか親もとをはなれていくものだが、しかしあの…

王国、売ります! 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(4)

「おまのせいで、ぼくはコラリーに殴られたんだ」 真相を知ると、かの人のあくどさが目につくのでシュシナックのやり口が痛快!にしても、フェリックスの怒りの源は、とてもわかりやすいですね。 → 感想

カブラルの呪われた秘宝 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(3)

「のんきに感謝してる場合?わたしはがまんできないわ!どうして正しい意見を言ったのに、馬鹿にされなきゃならないのよ!?あー、思い出しても腹が立つっ!!」 「コラリー。肝心なのは、最後に勝つことだ。ぼくらが先に財宝のありかを見つければ、だれだっ…

お城には罠がある! 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(2)

「……なにをすればいいんだ?」 テランスは、気楽そうに肩をすくめてみせた。 「なあに。たいしたことじゃないよ。ちょっとばかりきみに、監獄に入ってもらいたいんだ」 姑息な策を練ったら裏目る話は最高に楽しかった。コラリーのことになるとムキになるフェ…

薔薇の埋葬 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険(1)

「じゃあ、承知してくれるかい?」 「でも、結婚は絶対しないわよ!」と、彼女はすかさず付け加えた。 「これは母さんのためなんだから!ふりだけだからね!ふりだけ!!」 絶叫娘の叫びが笑える。謎ものとしてはわかりやす……と思ってたらちょっと捻られてて、…

恐るべき子供たち イシャーウッドの幽霊と呪いの館

「彼が見つかっちゃったんだ、リー。それを知らせたかったのさ」 「彼?」 「そう、彼だよ」 ショーンはつづけた。あいかわらず、無邪気な笑みをうかべたままで。 「おぼえているだろう?二年前、きみとぼくとで、森に死体を隠しただろう?」 どんなサスペン…