枯野瑛

銀月のソルトレージュ5 針のように細い銀の月

「自分には何もできないんだー、って思い知らされたんですか?」 「ああ」 「できることは、全部やったんですか?」 「……」 「やってないんじゃないですか?どうせ何もできないって思いこんじゃって、本当に何もできなくなって、それでもやもやしてたんじゃ…

銀月のソルトレージュ4 扉なき仮宿

「私は、化け物だ」 せめてもの抵抗として、ジネットは呟いた。 ≪そうじゃな≫ アルト老はこくんと小さくうなずくと、 ≪しかしな。化け物が人の心を持ってはならんという法はないんじゃよ≫ そんな意地の悪いことを、言った。 うお、これはどうなっていくんだ…

銀月のソルトレージュ3 琥珀の画廊

「ううーんと、その辺りを話そうとすると、長い話になってしまうんですが……」 アリスが、また立ち止まる。 「まず、わたしは、リュカさんの恋人じゃ、ありません」 声が変わっていた。それは、聞いているほうが思わずぞっとするほどに冷たく、そして寂しい声…

銀月のソルトレージュ2 金狼の住処

「あなたは ― 幸せなの。そのことを自覚しないといけない。 幸せとは、自分に関わる不幸に未だ気付いていないということ。 だからあなたは、知るべきではないことを、知ってはいけない。それは、あなたに幸せであって欲しいと願う、全ての人に対する冒涜にな…

銀月のソルトレージュ ひとつめの虚言

ごぶり、という大きな音が喉元で鳴った。 貫かれた場所は正確に心臓の少し上。 (殺され、た、のか……?) 瞳を動かして、目の前の少女を見る。 少女は、柔らかな笑みを浮かべた。それは、本当に、優しい笑顔だった。 「私を恨むがいい―」 少女の唇が囁き、茫…