榎田尤利

執事の特権

「なにがあろうと私に触れるな。指一本触れるな。必要がない限り、半径一メートル以内に近づくことも許さない。なにかを渡す場合、たとえばそれが書類ならば、一度机の上に置け。そしてすぐに机から三歩離れろ。他の場合も同じだ。これはきみを試験雇用する…

夏の塩

久留米だけがおめでとうと言ってない。 おめでとう。 誕生日おめでとう。 簡単な言葉なのに、口にできない。最初を逃してしまったのでタイミングが難しくなった。困り果てた久留米は、「もう一個」と魚住にケーキ皿を突きつける。 魚住が微笑んだ。 ケーキの…

始まりのエデン 新たなる神話へ

「歴史はときとして、権力者や支配者によって改ざんされる。そんな時代が二度と来ないという保証はない。人間は何度だって間違える生き物だから。けれど……」 軽く顎を引き、眠るわが子を見つめて続ける。 「けれど、神話は生き続ける。瑣末な枝葉を落とし、…

銀の騎士 金の狼 新たなる神話へ

また違うたびが始まる。それだけだ。今までとたいして変わりない。 ただ、今度の旅には仲間がいない ― それだけのことなのだ。 まさかここまできて、こんな展開が!なるべく早く続きを読もう → 感想

生まれいずる者よ 金の髪のフェンリル

「いやです」 「……なんだと?」 「僕は感情で動きたい。心で動きたい。みんなの言うように、もし僕が革命の英雄なら、世界を変えられるのだとしたら、それは僕の理性ではなく感情が変えるんです。感情を捨てて成し遂げる革命など、僕はいやだ」 運命という言…

沙漠の王 金の髪のフェンリル

なぜ忘れていたのだろうか。あの人はちゃんと、伝えてくれたのに。 ― どこにでも行ける。世界のすべては、おまえの場所だ。 フェン。 ねえ、あなたはそう言ったよね。夢の中で、僕を馬に乗せてくれたよね。 「ボーイ」という言葉だけで、何でこんなに心に響…

おまえが世界を変えたいならば ― 神話の子供たち

―サラ、きみが生まれてきたことが、そもそも奇跡なんだよ。 父の言葉を思い出す。言われたときは失笑したが、あの言葉は大げさでもなんでもなかったのだ。 生まれて、生き続ける。 それは間違いなく、ひとつの奇跡なのだ。誰もがみな軌跡を抱えて生きている…

片翼で飛ぶ鳥 ― 神話の子供たち

「サラ、大丈夫だ。みな承知している」 ホークアイは言った。 「戦いに行く以上、我々は常に覚悟している。おまえが戻ってきたからといって、同じように運ぶと考えているのではない。おまえはただ、我々にとって、もっとも大切なウーヒティカを思い出させて…

隻腕のサスラ ― 神話の子供たち

「だけど……フェンリルや、あなたたちには地図のほうが大切だったはず」 「いいえ、違うわ」 「地図がない私なんか……意味がない……」 「私たちが迎えに来たのは地図じゃない!」 顔から滴る水を拭い、ディンが怒ったような声を出す。 「あんただ。あんたは流行…

神を喰らう狼

「知ってる。あたしだってそうよ。リトルは名前じゃない……でも」 声は震えていた。 禁じられた呪文を口にするかのように、リトルは一度言葉をとめて、スゥと息を吸う。 そして言った。 「でも、あたしはここにいる。ボーイ、あなたも」 切なさに胸がいっぱい…