雨川恵

アネットと秘密の指輪 お嬢様とロンドン塔の王子

「そう言えば、この前は薔薇もありがとう。あれも美味しかったわ」 「美味しかったって……あなた、あれ食べたの!?」 「うん。え、だって、薔薇って食べられるでしょ?ベリーと一緒にジャムにしてもらったの。……なんかまずかった?」 「まずいも何も、あれは…

アネットと秘密の指輪 お嬢様と花のワルツ

「でも、まともな貴婦人なら、使用人と親しくしているなんて、口が裂けても言わないものだわ」 「あたしはまともじゃないから、そんなことどうだっていいわ。でも貴婦人っていうのは、よっぽど見る目がないもんなのね。使用人だろうが何だろうが、それがどう…

アネットと秘密の指輪 お嬢様と謎の貴婦人

「だって、あ、あたしの恰好……変でしょ?」 「どこにも、不備はないようにお見受けしますが、宮廷のしきたりに添っているものと存じます」 「そ、そういう意味じゃなくて」 何だかすごく噛み合っていない。目を逸らしていたことも忘れ、思わず相手を見上げた…

アネットと秘密の指輪 お嬢様のおおせのまま

「まったく、素晴らしいよ!リチャード、君、僕のところへ来る気はないか?」 「!ユージン!」 「君のような従者がいてくれると、本当に助かる。まさに理想的だ!もちろん、待遇は保証するとも」 「リチャードはあたしのよ!」 今にも手を握り締めんばかり…

イシュターナの祝鐘

「解っていないのは貴様の方だ、慮外者めが。そんなことくらいで、人間の価値が変わるものか。価値を決めるのは血の色ではない、意志と力だ」 「……」 「血を嘆くなら、貴様の生命など屑に過ぎん。拾い上げる意味もない。だが、多少なりとも己に意志があると…

ユスティニアの花束

「いかに夫婦とは申せ、礼を欠いてはならぬ。わたしはそなたと床をともにするが、いつ何時ことが起こるか解らぬ」 「! こ、ことなんか起きるかよ!」 「解らぬぞ。夜中に寒かったりしたら、わたしはそなたの分まで毛布を取ってしまうかもしれぬ。そなたとて…

シェーンベルムの騎士

「わたしのせいでアダルシャンが攻められるのも困るが、あの服でいらぬ恥をかくのも嫌じゃ。これは何としても、いよいよここを出て行かねばなるまいな!」 「……それって……」 「……まる、服が嫌だから家出するみたいだな」 「というか、そんなに嫌なのかよ?た…

カストレーデの皇子

「ユティ。お前の兄上に会いに行こう」 「え?」 「カストリアの皇太子殿下が、お前に会いたいって」 なるほど、こういう展開になるか。これは二国間で何かが起きそう。→ 感想

バルハールの姫君

「ユティ」 朝になったら平気になる。明るくなったら、自分の道を見つけられるだろう。けれど今だけは、その孤独が辛かった。この暗い闇の中で、寂しいのは嫌だった。 「少しだけ」 このままで。 おおっと、何か大きな動きがありそうな予感。→ 感想

エルヴァインの末裔

「我が儘でも、自分勝手でも良いではないか。言ったであろ、わたしはもう知っておるのじゃ」 「……」 「だからわたしには、本当のことを言うと良い。そうでなくば、また心をなくしてしまうぞ。答えるが良い、わたしに来て欲しいのか?それとも本当は嫌なのか…

グラーレンの逆臣

何と言うことはない、他人が聞けば当たり前のような一言。けれどその一言こそ、アレクシードにとっては何よりも衝撃的なものだった。 ― 無事に、帰ってきて。 離れ離れになってしまったふたりに、さらに追い討ちがくるなんて……→ 感想

ハルシフォンの英雄

やれやれ、と肩をすくめたアレクシードも、それ以上は言わずに口を閉ざした。少しだけ、沈黙が続く。隣を歩くユスティニアに袖口を引かれ、少し屈んだアレクシードは、耳元に小さな囁きを聞く。躊躇いがちな、その囁き。 「……ごめんなさい」 ユティがカワイ…

アダルシャンの花嫁

「完璧に政略結婚じゃねーか」 「好き合って結婚するとでも思っていたのか?」 「いや、そーじゃねーけど」 「別に心配してくれなくてもいいぞ。女なんて、どこの国でも大差ない」 「そりゃ、女ならな」 「……まさか、カストリアに、そんな皇女はいません、な…