宮木あや子

雨の塔

身体の中でチリチリと燃えるような音を立てて崩れてゆくものが何なのか判らない。 人を大切だと思って、一緒にいたいと思うことが、これほどの苦痛を伴うものとは思わなかった。 世間から隔離された学校で、女子生徒たちが送る生活が、緩やかに崩れて行く様…

春狂い

「死にたい」 その四文字は、紛れもなく私の書いたものだった。ああ、と私は合点する。 ……そうか。私は死にたかったのか。 一編ごとに語り手が異なると思っていたら、実は繋がりのある六編でした。生まれながらにして人を狂わす美しさを持つ少女が、男達に穢…

好き、だった。―はじめての失恋、七つの話―

「今思えば、俺の若い頃の失恋は、甘ったるかったなぁ。ただ行き違っただけ、タイミングが合わなかっただけ。きっと本当の失恋っていうのは……」 「人生が枯れて、恋そのものを失うこと」 「ほんと、俺なんて人間に恋したカバの気分だよ」 失恋ものということ…

白蝶花

「結婚は、していません。父親も、兵隊に行きました」 「……」 「一人で生きていかなきゃいけないんです、私は」 千恵子は吹雪の荒れた手を取った。 「ねえ、男の人に頼らず一人でも大丈夫だと、生きてゆけると言ってくださいませ、お姉さま。千恵子さんなら…

花宵道中

「姉さんは、痛い思いをしたの、」 「してなきゃこんなこと言わねえよ。夢を見るのが許されてるのは男だけだ。女は男に夢を見させてあげるだけ。そういうところなんだよ、此処は」 愛しい人を思い立つ、他の男に抱かれる。遊女の恋はなんと残酷なんだろう。…