本宮ことは

踊れ、光と影の輪舞曲 幻獣降臨譚

「おおかた、悲しんでいるのは自分だけのつもりで、周りの者の気持ちになど思いが至らなかったのだろう。一族の者が、どれほどおまえに気を使っていたか知っていたか?そちらの巫女がどれほどおまえの心配をしていたか ― 傍から見ているしかできない者の苦し…

花に嵐の喩えもあれど 魍魎の都

「おまえの妹は鬼に化したにもかかわらず、人の心を取り戻し、人として逝った。見事な最後だった」 「おまえが斬ったくせになにを言う!」 「……こちらも斬りたくなかった。できればな」 綱は嘆息した。 「おまえはどうする?改心して人に戻るか?それとも鬼…

この手の中の儚きもの 幻獣降臨譚短編集

これは、まだ私にも愛しい者たちがいるということなのですか、女神様。 確かに、私はイリアとゲイドの二人を愛しています。 自分が叶えられなかった夢を、せめて二人に重ねて見るのは不純だろうか。 彼のところへいくのは、いつでもできるから。 この愛しい…

渡れ、月照らす砂の海 幻獣降臨譚

「……光焔」 『戸惑うな、我が乙女よ』 鼻面を押し当て、アリアを見上げた光焔の黄金の瞳が、闇の中で星のように輝いている。 『なんと名付けられようが、なんと呼ばれようが、我は我だ。今までも、これからも、何も変わらぬ』 新たな場所で生まれる謎とサス…

走れ、真実への細き途 幻獣降臨譚

アリアは一瞬あきらめかけた。 あきらめかけて そのとき、思い出したもの。 自分を救おうと、悪漢に向かっていって傷ついたという、村の青年。 アリアと父をずっと見守ってくれた、姉代わりの義母。 胸を張れと、アリアに勇気をくれた女船長。 アリアのこと…

魍魎の都 姫様、出番ですよ

「怪しいって、私が怪しいって……え?」 一拍おいて。 ようやく、則光の言葉の意味が呑み込めた諾子は、がばっと立ち上がると、拳を握り締めて絶叫した。 「わ、わ、私が下手人ですってーーーーっ」 諾子=清少納言が殺人事件に巻き込まれるお話です。お転婆…

響け、世界を統べる唄 幻獣降臨譚

「あの……シェナン……」 「うるさい。もう黙れ」 けれど、そう言う彼の耳は、ゆで上がったように真っ赤で。 アリアは思わずくすりと笑みを零した。 (……魅力って。私の魅力、って……) そんなことを言われたのは初めてだ。特に相手がこの ― 堅物王子だなんて。 …

流れよ、凍りし我が涙 幻獣降臨譚

「私はあなたのことが好きだよ。たぶん、あなたが思っているよりずっと」 ―悲しげな瞳で笑っている、この女は誰だ? 「忘れないで。この先、たとえなにがあっても、どんなことがあっても、私はあなたが大好きだから」 背筋が冷えた。 たぶん、彼女は知ってい…

されど月に手は届かず 魍魎の都

「晴明殿の使いによると、貴殿が預けた黒き羽根、あれはどうやら、魔縁のものと思われる、らしい」 「魔縁?」 「魔縁でわからなければ、こう言えばわかるかな」 頼光の唇がゆっくりとその単語を紡ぐ。 ― 天狗、と。 ツンがデレになっていくという次以降の作…

猛れ、吹き荒ぶ沖つ風 幻獣降臨譚

「誰かいるのね?気になる人」 「い、いませんよー」 アリアは慌てて頭を振った。 違う。今のは関係ない。 「えー?教えてくださいよ」 「だから、いませんってば!」 否定しながらも、アリアの心の中には、先ほどサフィアが言ってた言葉が木霊していた。 見…

繙け、闇照らす智の書 幻獣降臨譚

「……あの?」 「ううん、なんでもないの。あなた、見直した。ちゃんと否ということを知っているのね」 イヴリーダは微笑んだ。 「アランダム騎士団には、こういう言葉があるのよ。『進は勇、退くは賢、留まる者のみが時を失う』……まさに、今のあなたに当ては…

吠えよ、我が半身たる獣 幻獣降臨譚

「恋をしなさい、アリア」 歌うようにウィーダは言う。 「あたしの強さはなんなのか、という質問の答え、ね……恋をするというのは、大事なことの優先順位がつくということ。何をおいても守りたいものと、捨て去っても構わないものの順位がつくの」 優しい、そ…

聞け、我が呼ばいし声 幻獣降臨譚

「これからおまえは忌み女と呼ばれる……忌み女というのは知っているね?」 「少し……触れてはならない穢れた存在だと……」 「そうだ。この村でお前は誰にも話しかけられないし、相手にされない。当然嫁にもいけない。なにか不幸があればおまえのせいにされるし…