本宮ことは
「おおかた、悲しんでいるのは自分だけのつもりで、周りの者の気持ちになど思いが至らなかったのだろう。一族の者が、どれほどおまえに気を使っていたか知っていたか?そちらの巫女がどれほどおまえの心配をしていたか ― 傍から見ているしかできない者の苦し…
「おまえの妹は鬼に化したにもかかわらず、人の心を取り戻し、人として逝った。見事な最後だった」 「おまえが斬ったくせになにを言う!」 「……こちらも斬りたくなかった。できればな」 綱は嘆息した。 「おまえはどうする?改心して人に戻るか?それとも鬼…
これは、まだ私にも愛しい者たちがいるということなのですか、女神様。 確かに、私はイリアとゲイドの二人を愛しています。 自分が叶えられなかった夢を、せめて二人に重ねて見るのは不純だろうか。 彼のところへいくのは、いつでもできるから。 この愛しい…
「……光焔」 『戸惑うな、我が乙女よ』 鼻面を押し当て、アリアを見上げた光焔の黄金の瞳が、闇の中で星のように輝いている。 『なんと名付けられようが、なんと呼ばれようが、我は我だ。今までも、これからも、何も変わらぬ』 新たな場所で生まれる謎とサス…
アリアは一瞬あきらめかけた。 あきらめかけて そのとき、思い出したもの。 自分を救おうと、悪漢に向かっていって傷ついたという、村の青年。 アリアと父をずっと見守ってくれた、姉代わりの義母。 胸を張れと、アリアに勇気をくれた女船長。 アリアのこと…
「怪しいって、私が怪しいって……え?」 一拍おいて。 ようやく、則光の言葉の意味が呑み込めた諾子は、がばっと立ち上がると、拳を握り締めて絶叫した。 「わ、わ、私が下手人ですってーーーーっ」 諾子=清少納言が殺人事件に巻き込まれるお話です。お転婆…
「あの……シェナン……」 「うるさい。もう黙れ」 けれど、そう言う彼の耳は、ゆで上がったように真っ赤で。 アリアは思わずくすりと笑みを零した。 (……魅力って。私の魅力、って……) そんなことを言われたのは初めてだ。特に相手がこの ― 堅物王子だなんて。 …
「私はあなたのことが好きだよ。たぶん、あなたが思っているよりずっと」 ―悲しげな瞳で笑っている、この女は誰だ? 「忘れないで。この先、たとえなにがあっても、どんなことがあっても、私はあなたが大好きだから」 背筋が冷えた。 たぶん、彼女は知ってい…
「晴明殿の使いによると、貴殿が預けた黒き羽根、あれはどうやら、魔縁のものと思われる、らしい」 「魔縁?」 「魔縁でわからなければ、こう言えばわかるかな」 頼光の唇がゆっくりとその単語を紡ぐ。 ― 天狗、と。 ツンがデレになっていくという次以降の作…
「誰かいるのね?気になる人」 「い、いませんよー」 アリアは慌てて頭を振った。 違う。今のは関係ない。 「えー?教えてくださいよ」 「だから、いませんってば!」 否定しながらも、アリアの心の中には、先ほどサフィアが言ってた言葉が木霊していた。 見…
「……あの?」 「ううん、なんでもないの。あなた、見直した。ちゃんと否ということを知っているのね」 イヴリーダは微笑んだ。 「アランダム騎士団には、こういう言葉があるのよ。『進は勇、退くは賢、留まる者のみが時を失う』……まさに、今のあなたに当ては…
「恋をしなさい、アリア」 歌うようにウィーダは言う。 「あたしの強さはなんなのか、という質問の答え、ね……恋をするというのは、大事なことの優先順位がつくということ。何をおいても守りたいものと、捨て去っても構わないものの順位がつくの」 優しい、そ…
「これからおまえは忌み女と呼ばれる……忌み女というのは知っているね?」 「少し……触れてはならない穢れた存在だと……」 「そうだ。この村でお前は誰にも話しかけられないし、相手にされない。当然嫁にもいけない。なにか不幸があればおまえのせいにされるし…