加納朋子

スペース

「手紙?」 小首をかしげて彼は言う。 私は勢い込んでうなずいた。 「ええ、手紙。ちょっと分量が多いんですが……ご迷惑じゃなければ、近いうちにお送りしてもいいですか?」 違和感を覚えながらミスリードに気づけないあたりが僕らしい。「バックスペース」…

魔法飛行

「信じたい人間だけが、信じればいいのさ。ほかのやつの言うことなんて、気にすることないんだ」 その口調に、私ははっとした。彼もまた、何かを信じるために決して小さくはない代償を支払っている一人なのだ、と思った。 世の人はどうして、積みのない夢想…

ななつのこ

「人間誰しも、同じように切ない思いをして、大人になってゆく」 などと陳腐な台詞でお茶を濁そうというのではありません。 私があなたに対してできうる唯一のことは、あなたの<なぜ> にお答えすることなのです。 なぜ、あなたのアルバムから写真がなくな…

モノレールねこ

このねこのなまえはなんですか? 紙を細長く折りたたみ、首輪が二重になったところに押し込んでおいた。 何日かたって、またあのねこがやってきたとき、とっつかまえて首輪を調べてみた。すると、ぼくが入れたものとは明らかに違う紙がはさまってる。 どきど…

レインレイン・ボウ

「片桐陶子だけど、覚えてるかな……」 電話での開口一番、相手はまずそう名乗った。 「もちろんよ」 大急ぎで美久は答えた。もちろん、陶子のことはよく覚えている。高校時代に在籍していたソフトボール部のキャプテンでピッチャーだった。 「チーズが死んだ…

コッペリア

間違いなく、僕はあの人形に恋をしていた。そして、そんな自分を持て余していた。人間に対してすら、そんな感情を抱いたことはなかった。 そんなある日のこと―。 奇跡は起こった。 あれほど恋焦がれた人形が、今、生きて動いて僕の目の前にいる。 たった一文…

レイン レイン・ボウ

知寿子が死んだ。 高校時代のソフトボール部のキャプテンからそんな連絡があった。 久しぶりに仲間と会う場が通夜とは・・・・・・。 久しぶりに出会ったことで、動き出す展開。 知寿子が死んだのは私のせいかもしれないと思う美久。 知り合いの作家から聞い…

てるてる あした

お金の管理にずぼらな両親。気がつけば借金にまみれた家計。 ようやく高校に合格した私の入学金すら払えない始末。 そして夜逃げする両親。私は母の遠い親戚へ預けられることになった。 そこはささらという町の、鈴木久代さんの家だった・・・・・・。 「さ…

スペース [amazon]

前作が出版されたからもう十年以上経ってるんだなあ。 というわけで、雰囲気は覚えているものの、登場人物のことなどすっかり忘れていましたが、読み進めるうちに思い出してくる。日常の謎を持ち味とする物語ですが、ミステリィというほどではない。 「スペ…