樹川さとみ

箱のなかの海

「いいよね。あたしも、あれ、好き」 好きって言葉はいいもんだな。と、ぼくはなんだかしみじみ思った。 ぼくの部屋には、船の模型と、大きなラジオと、変な海の写真がある。 ぜんぶ、とても好きなもの。 そしていつか見知らぬ場所からふしぎな便りがとどい…

グランドマスター! のこされた神の郷

「あなたが言った。甘えはいらないと」 「ええ」 「そういうわけで、わたしもあなたをそのへんの姫あつかいはいたしません」 「ハルさん?」 「わたしの、力が必要ならばわたしを使いこなしたいのならば、命令なさい。総長。ただひとことやれと命令すればい…

グランドマスター! 道連れは王子様

「認めない!」 「認めるべきです」 感情をみせてハルセイデスはつよく言い返した。 「あのひとはばかで、秘密主義で、ひとを怒らせる天才です。そして他人の尻をさわりまくる変態だ」 正確には、シーカが執着しているのはハルセイデスの尻であるが。 「それ…

グランドマスター!呪われた女騎士?

「ほら、こんなにお胸があるのに……まあ」真正面から胸をさわって「わたしよりあるわ」とつぶやく。 「総長。そっとしておいてあげなさい」 「だって、やわらかくて気持ちいいんですもの」 あとすこしでもシーカの性的嫌がらせ―やってる当人に自覚はないらし…

グランドマスター! 総長はお嬢さま

名前だけの姫総長だって?シーカをただの名前だけの姫総長として見ることがだんだんむずかしくなってきている。無視しようにも無視できないのだ。 よくも悪くも、彼女は強烈な個性の持ち主だから。この二年近くのあいだ無感覚になっていた自分を、これほど怒…

ねじまき博士とガラスの時計

「ただ、わかったんだ。あそこにいるって―さみしがってたから。ねえ、ジャック……」 「ハイ」 「帰りたかった?」 「……ハイ、とても。とてもとても」 うそはつけなかった。 これで終わりなんでしょうか。残念だなあ。 → 感想

ねじまき博士と謎のゴースト

ゲートをくぐる直前、彼女はふりかえり、唇のかたちだけでオリビエにつたえた。それは〝さようなら〟ではなかった。 オリビエの顔にふたたび笑顔がもどる。 彼も彼女とおなじことばを。返す 「また、いつか」 ほほがゆるみっぱなしでした。ほのぼのほのぼの…

ねじまき博士と迷い猫

「博士って、たのしみとかシュミとかないよね、ぜんぜん。びっくりするぐらい。なにかほしいと思ったことないの、研究以外で?」 「あるとも」 ふんと鼻を鳴らし、博士はくそまじめにこたえた。 「朝おきて、メガネをさがすためのメガネがほしい」 ほんとほ…