樹川さとみ

グランドマスター! 名もなき勇者の物語

「シーカは予言の巫女。すべてを受け入れる器じゃ」 アダジーリョは言う。 「聖典にない名もなき神々であろうと、太古の双極であったあの<闇の大神>でさえも。そうじゃ、理解したか。シーカは諸刃の剣。ひとつまちがえばたちまち、復讐にかられる闇の化身…

グランドマスター! 黎明の繭

彼はたぶん気づいている。 まもなくわたしが三度目の死をむかえようとしていることを……。 ふたりだけの世界でいるときが唯一安らぐ時なのか。無邪気なまでの変態さすら切なく思う。彼女を道具としてしか見ない者たち、団長を追いかけてくる人、様々な視点か…

時の竜と水の指環(後編)

「かならず、おまえを救ってやる。なにがあっても命を捨てるな。おのれの心に負けるな……!わすれるな。ノーマ・カーの森に帰るまで、おまえはわたしのものだ」 ク・オルティスに結婚話がもちあがったことで、唐変木な男が自分の心に揺れる展開に似やついてし…

時の竜と水の指環(前編)

「……なにからお話しすればいいのでしょうか」 「きみの過去を。アイリ。なぜ、きみがこんな魔法使いのところまでくる決心をしたのか―その理由を。きみが男のなりをしている訳を」 兄の影を背負った薬師アイリが、魔術士に願ったのは、女になる方法だった……と…

楽園の魔女たち 楽園の食卓 後編

「あの子たちには、自分が世界を守ってやろう、なんて驕りはこれっぽっちもないですよ。あなたがたとはちがう。いまはただ友人のために、おたがいを思いやって懸命に行動している―ただそれだけです。友を思いやることもできないあなたがたに、世界の平和が守…

楽園の魔女たち 楽園の食卓 中編

「一瞬だけだったけど、マリア、わ、わかったの」 「えっ……?」 「すごくかなしそうな眼であたしを見た」 自分のブラウスの胸元をにぎりしめ、「ここで」とマリアはいった。 「殿下も泣いてた」 ファリス、ファリス、ファリス!あなたの思いに涙が溢れる。彼…

楽園の魔女たち 楽園の食卓 前編

「おい、ちゃんと聞いてんのかオラ。勝ち逃げはゆるさねえぞ。えげつない手で上級までもぎとったあんたらのこった、なにがなんでも決めたことは最後まで根性でやるんだろうが。そうだといえよ。たとえ……術なんか封印されたってよ」 行け、と彼はもう一度いっ…

楽園の魔女たち ミストルテインの矢

「あなたがたはご自分の家や土地よりも、彼女たちのほうを心配しているんですか。騎士が国を守るのは当然ですよ。ふんぞりかえって守られていなさい」 「だども、なあ?」 「なあ?」 「ありがとうの気持ちだけは、わすれちゃなんねえべ!?」 エイザードは心…

楽園の魔女たち 天使のふりこ

「私は、私はっ、こどもがきらいだっ!」 あーちゃ!と、だめ押しのように姫君が笑った。 鼻をすすりながら、それでも虚勢を張って騎士はこたえた。 「私の名前はアシャだっ!!」 短編集。表題作の痛快さに笑いが止まらなかった。サラを敵に回したくなく、殿…

楽園の魔女たち 月と太陽のパラソル(後編)

「けっきょく、マリアひとりじゃなんにもできないんだね……。がんばって、ひとりでやるって決めてきたのに……お師匠さまとも約束したのに。なんか、ちょっとなさけないかも」 「そんなことないぜよ、魔女どの」 レサがまじめな顔でいう。 「オババがいつもいう…

楽園の魔女たち 月と太陽のパラソル(前編)

運命って信じる? せいいっぱいまじめにきいたつもりだったのに、即座に「いいや」とおあの人は首をふった。 がっかりしているマリアに、すんだ水色の瞳で彼はいった。 「信じるものが運命だよ」と。 マリアが旦那を探しに行くお話。ひとりで冒険なんて大丈…

楽園の魔女たち まちがいだらけの一週間

「おしえてさしあげるわ。ここは魔術師の館よっ!まさかこのままマチガイでした、ですむとは思っていないでしょうね。なんとかお言い!この家出娘ーーーーーーーーー!」 起業って難しいよねーと思ったけど、なんですかこのピンチをチャンスに変えて行く手腕…

グランドマスター! 刻まれた聖痕

その小さな頭をしっかり胸にかかえ、最後に彼が思い浮かべたのは、さっきシーカが告げたことばだった。 『ハルセイデスには、ただ、笑っていてほしいと、のぞみます』 ああ、それはおれこそがあなたに望むことだ。シーカ。 こんな苦悩をなぜあなたがひとりで…

楽園の魔女たち 星が落ちた日

「お嬢さんがた、その親方からナニを教わったって?」 師匠が身をもって教えてくれたことがあるとすうればただひとつだ。 ぐりん、と顔をむけて、娘たちは異口同音にこたえた。 「売られたケンカは最後まで買うこと」 楽園崩壊の巻。冗談かと思ったら本当で…

楽園の魔女たち ハッピー・アイランド

「うむ。これは、アレは……いよいよほんとうのことかもしれない」 「アレ……」 「そうだアレだ。噂のドクター・カプラーには、秘密の治療法があるという。彼の秘術と呼ばれる治療を受けた患者は」 「か、かならず……だれであろうと、かならずしあわせになれる?…

楽園の魔女たち 薔薇の柩に眠れ

「あなたほどの術者がなぜ」 「なぜ化け物をさっさと殺さなかったかとおききですか?お若い方。わたしの師匠が興味深いことを申しておりました。過去を変えることはだれにもできない。しかし、いまという瞬間から自分自身をあたらしく築いてゆくことはできる…

楽園の魔女たち 不思議の国の女王様

「でええええーーーーっ!?なに、いまのーっ!?どど、どしてナハさんをさらっていったのお!?」 ナハトールが誘拐されて、エイザードが病に臥せて、何やら悪どい魔具に遭遇したのに、このお弟子さんたちが揃ってると負ける気しないなあ。理由をつけてようやく動…

楽園の魔女たち 課外授業のその後で

「よそう。しめっぽいのは、きらいだろう?さよならは、いいたくないけどね」 「じゃあ、こういえばいい」 「なんて?」 「『また会おう』と」 問題児ばかりが集まる学校に、サラが教師として赴くお話。生徒達がケンカを売る度にニヤリとしてしまう。敵うわ…

楽園の魔女たち 大泥棒になる方法

「支部長さんっ!こっちです!!」 「おおっ!」 かがり火のあいまに、二頭の馬と乗り手が見えた。 地面まではまだかなりの距離がある。グッと一瞬ひるむ。 ええい、かまうものか! 「いま行くぞ、流星号―っっっ。おまえのためなら、私は鳥になれる……っ!!」 フ…

楽園の魔女たち スウィート・メモリーズ

「姉が来た、と。そううかがったのですけれど?これはなにかのご冗談?どこにあたくしの姉が?」 「きゃあ、ごめんなさい。だってだって……こちらの方が」 「は、わたくしでありますかッ!?」とうわずった声でアシャ・ネビィ。 「わたしくのことを、あなたの…

楽園の魔女たち この夜が明けるまで

「<オマエたちは、なに!?なぜアタシの邪魔を……!!>」 「おだまり、この妖怪変化。ここまで世間と他人に迷惑をまきちらしておきながら、何故だなんておこがましいッ。いつまでも見苦しくゆらゆらクネクネしてないで、とっとといさぎよく土に還っておしまい!…

楽園の魔女たち ドラゴンズ・ヘッド

「アタシなんか、みんなに嫌われてるし……もうこのまま一生もどれなくてもいいんです」 「そのセリフ、この宿主に直接いってみるといいわ。どういう顔をするかしらね?」 「ああっ!アタシはこんな下等な人間にまで嫌われるのですね。アタシなんかアタシなん…

楽園の魔女たち 銀砂のプリンセス

彼はここで気づくべきだったのだ。 その口もとに浮かんだ笑みに、ダナティア皇女殿下の不治の病に。 死にいたることはないが、一生治ることもない。 その不治の病の名を「負けずぎらい」といった。 殿下が外交上のトラブるを片付けに砂漠へいったら、奴隷に…

楽園の魔女たち 七日間だけの恋人

「そっ、それは……卑怯ですっ!」 「そう。それがさっきの答え」 「は?」 「卑怯なことをしても手に入れたいと思うのが、恋。……それを実際にやるかどうかは別問題だが。友情じゃそんなことはないだろう?」 ファリスの婚約物語。ああ、なんという苦悩人生………

楽園の魔女たち とんでもない宝物

「わたしは、たしか、なるべく秘密裏にといいませんでしたか……?」 サラのお話と、お弟子さんたちで人質救出する二本立て。いつだって殿下が可愛いけど、今回はサラ大活躍だったなあ。いつか酔っ払ってるとこもみてみたい。秘密裏の作戦が大事になってしまう…

楽園の魔女たち 賢者からの手紙

「ばかをおっしゃい、どうしてあたくしがたかが豆ごとき……」 「あれえ、でも」マリアが首をかしげる。 「さっき笑ってたよね−?やっぱりうれしい?うれしい?」 (こ……このガキ……!とぼけた顔して目撃していたのね!?) 「えっ。ほんとに?」と心底おどろい…

グランドマスター! 折れた聖杖

「あそこに ― 玉座に、法皇猊下はおられませんでした」 「― 偽物だったと?」 「そうです」 「では、本物は」 「あの場におられました、司祭の列のなかに」 シーカの望みはとても平凡だけど、彼女の背負うものを考えると困難だよなあ。胸が痛くなるものがあ…

グランドマスター! 聖都をめざせ

「おはようございます、ハルさん」 そう言ってシーカ姫総長が今日も朝っぱらから尻をさわってくる。 「今日はきっといい天気ですわね〜。手ざわりでわかりますわ」 「なんの話ですか」 「ハルさんのお尻占いですわ」 シーカーの周辺に黒い動きが見え始めてき…

グランドマスター! あらたなる旅立ち?

巫女として、彼女は使命を受け入れて、まっとうしている。 ハルセイデスにしてみれば、そんなシーカの悟ったような態度はまるで死ぬ気まんまんでいるように見えるのだ。冗談じゃない。そんなにかんたんに死なれてたまるか。守ると決めた人間を、ふたたびうし…

グランドマスター! 姫総長は失業中!?

「バカ、それがヘンだって言ってんだよ」 「え?」 「新記録だぜ?船旅のあいだ、あのソーチョーがいちどもダンチョーの尻にさわってないんだもん」 「あっ。そ、そういえばそうかも?」 「ぜってーおかしいって」 ふたりが離れちゃうとシリアスになっちゃう…