高田郁

心星ひとつ ― みをつくし料理帖

「この歳になればわかることですがね、精進を続けるひとに『ここまで』はないんですよ。『ここまで』かどうかは、周りが決めることではなく、自分自身が決めることでしょう」 ああもう。女の幸せという言葉は、正しくもあり……だよなあ。思いが届きそうで、ま…

小夜しぐれ ― みをつくし料理帖

「誰しも婚礼の席では、どうか末永く幸せに、と祈る。けれど人生はそう容易うはない。良いことと同じくらい辛いこと、悲しいことが待ちうけてるんや。苦しいときに思い出してもらえるような、そんなお膳を作りなはれ」 もしかしたら、そんな道を考えてしまう…

銀二貫

「寒天はでしゃばらへん。せやからこそ、それぞれの旨味を、喧嘩させんと上手いこと、ここまで見事に引き出してくれるんや。旨味を引き出して、しっかりと閉じ込める。これが寒天の技なんや。ええか、お前はんの商うてるのは、こないに凄いもんなんやで」 あ…

今朝の春 ― みをつくし料理帖

「勝負事ってのは厄介でねぇ、どれほど努力したとか精進したとか言っても負ければそれまで。勝負に出る以上は勝たなきゃいけない。そう思うのが当たり前ですよ」 ただ、と、りうは言葉を切った。 「勝ちたい一心で精進を重ねるのと、無心に精進を重ねた結果…

想い雲 ― みをつくし料理帖

「化け物稲荷に、駒繋ぎが根付いたな」別れ際、男は何気なく言った。 「あれを見ると、どういうわけだか、お前さんを思い出す」 「牡丹でも菊でもなく、駒繋ぎなのですか?」 「その花は、いかなる時も天を目指し、踏まれても、自らを諦めることがない」 す…

花散らしの雨 ― みをつくし料理帖

「けどね、澪さん。恋はしておきなさい。どんな恋でも良いんです。さっきは心配だなんて言いましたがね、あんたならどんな恋でもきっと、己の糧に出来ますよ」 今回も美味しそうな料理ばかりですが、その料理を通して人の思いを描くからこのシリーズ好きです…

八朔の雪 ― みをつくし料理帖

― 安うて、美味しいて、みんなに喜んで食べてもらえるもんがええなあ。 何かを美味しい、と思えれば生きることができる。たとえどれほど絶望的な状況にあったとしても、そう思えばひとは生きていける。 幼い頃に両親を亡くし、大阪から江戸へ渡ることになり…