仁木英之

先生の隠しごと 僕僕先生

「あなたが待っているから、先生にはあなたという帰る場所がある」 「俺が?」 「大切な人が迷って揺れている時は、一緒に揺れてはだめ。大樹のように動かず、その人がもたれかかれるように。雨風が吹きつけている時には、その枝で覆ってあげられるように」 …

朱温(上)

「それからもう一つ」 布袋はふとまじめな顔をして言った。 「人はなんにでもなれるんやで。鬼にも仏にも」 はじめはすごい応援したくなる人だったのに、なんかだんたん……やはり二度目の約束を守れなかったことが、大きかったのかな。朱温のお話といっても、…

さびしい女神 僕僕先生

「慈雨を喜び、長雨を恨み、太陽を尊び、旱を憎む。己の手に届かないことに喜んだり悲しんだり。毎年大騒ぎしておるのを見ているのは実に楽しい」 そして 「わしもあの仲間に入りたい、と何度も思ったよ」 蚕嬢の故郷へ。旱の原因となってる女神は、力の大き…

胡蝶の失くし物 僕僕先生

「では、一つ気休めを言ってあげよう」 僕僕はにやりと笑った。 「どれだけ無理なことに見えようと、そちらに向かって歩き出した時点で、それはもう不可能ではない。どれほど小さくとも目的へ到達するという可能性が生まれるんだ。ただしその代償は途方もな…

薄妃の恋 僕僕先生

「珠鼈じゃなくてもキミの心中なんて簡単に読める。何せ顔に出ているからな」 僕僕がにやにやしながら王弁のわき腹をつついた。 「な、なにも考えちゃいませんけど」 「うそだ。キミはじゃまされたくないんだよね?せっかくボクと二人きりで……」 「あーあー…

僕僕先生

「列子という人がね、よく言っていた。喜怒哀楽なんてものはその場限りのものだ。時間が過ぎ、状況が変わればあっさり変化するし、どんな強い感情も醒めてしまう。そして感覚に絶対的な正解なんてない、ってね。でもだから心を無にして、とはボクは思わない…