小野不由美
「……でも、だって」 「麻衣、依頼者は誰だ?」 はっと麻衣は言葉に詰まる。 「守るべき人間を間違えるな。お前はプロだろう」 ナルによって見えてきた悲劇。ああ、これが悪夢なのか。慈愛と忿怒が絡み合う狂気が遣りきれない。いったんは解決したかに見えた…
(姿見の向こうに……) ベースに向かって足を踏み出しながら、それは唐突に脳裏に浮かんだ。 (……コソリがいる……) ナルたちの相変わらずのやり取りにニヤニヤしてたら、背筋がゾクっとくる怖さにやられる。でも目が離せない面白さでした。いったん解いた謎が…
「さーて、帰るか」 ひっどーい。しくしく。ぼーさんまでー。 んでも、ぼーさんは車のほうに歩き出しながら、あたしの頭をぐしゃぐしゃかき混ぜてくれた。綾子にも真砂子にも背中を叩かれて。でもってジョンと安原さんの笑顔と、リンさんの縁起のいい微笑い…
「― 開かない」 「そんなはずございませんでしょう・たった今そこから ―」 真砂子の声に、あたちは首を振ってみせた。 「開かないの。あたしたち、閉じ込められたの」 ナルの様子が変だなあと思ってたら、すてきにホラーな展開になってきましたよ!これは下…
「だって『おこぶさま』って……」 「海から流れ着いた流木。形が仏像に似ているから祠を建ててこれを祀る。『えびす』だ。堂々たる『マレビト』だよ」 言ってぼーさんは苦い顔をする。 「綾子の忠告どおり寝てりゃよかった。俺たちは神サンを相手にしなきゃな…
「まさか例の夢か?」 「うん。だと思う」 「どんな?」 思い出したくない。思い出そうとするだけで、血の臭いが漂ってくる気がする。 「あたしが殺される夢」 ここにきてレギュラー陣たちに気になるネタがでてきたなあ。それだけじゃなくて、本編もガリガリ…
「ずるいっ!!」 「……は?」 キョトンとするナル。 「あたし、あやまろうと思ってたのにっ!先に言うなんて絶対にずるいっ!!」 「あのな……」 「ナルってば、そーやっていっつもオイシイとこばっかとってくっ!ずるーいっ!」 こんなやり方で霊を強めるとは!…
「冗談。ナルが優しかったら、この世は善人ばかり。天国みたいなもんだよぉ」 「そ……そうなの?」 「性格悪い、悪い。口は悪いし冷淡だし、おまけにナルシストで秘密主義」 笠井さんはあたしの顔をのぞきこむ。 「……でも好きなのね?」 ……うっ。あーうぅぅ。…
「礼美ちゃん、お姉ちゃんのところに帰ろう!」 「おともだちが、あそぼ、っていうの」 「ダメよ、その子たちとは遊べないの」 「でも……」 煙が礼美ちゃんにまとわりつく。だんだん色が濃くなる。礼美ちゃんは立ちすくむ。 「礼美ちゃん!」 「みんながはな…
「カメラの弁償をしてもらってもいいんだが……」 「弁償って、いかほど……」 渋谷氏がサラッと言ってくれたのは、とんでもない額だった。夢のような大金。 ……目の前が暗くなった。 「それがいやなら」 ……なんですか?弁償しないですむならなんでもするわっ!」…
春休み。毎年恒例の親戚の家へ向かった直樹と典子。 自然溢れる山の生活は、ユートピアのよう。 だが、時おり陰る表情を見せる伯母。 疲れたような表情を見せる従兄弟の隆。 「何かあったのか?」 「夜に……変な気配がするんだ」 そして次の日から、隆の態度…