深山くのえ

桜嵐恋絵巻 〜夢咲くころ〜

「あのな、いくら無風流な俺でも、蛍ぐらいは静かに見たいぞ。そういうときは、絶対そなたと一緒に見るのが一番なんだ」 「わたくし……」 「って言っても、別に蛍だけじゃないな。何を見るにしても、結局はそなたと見たいんだ、俺は」 ふたりが付き合いだした…

桜嵐恋絵巻 〜はるかな日々へ〜

「えっ?……あ、もしかして、あなた北の方から聞いてなかったの……?」 「何のことです?母上が何か……」 雅遠は、姉に詰め寄るように、身を乗り出した。 「答えてください、姉上。母上は、俺の妻に何を言ったんですか」 なかなか認めてくれない義母にやきもき…

桜嵐恋絵巻 〜水底の願い〜

「それにしても、あなた独りで、いったいどうするの?何もできないでしょう。誰か連れてこないと」 「……誰にも言ってないもの」 「え?」 「言ってないのよ。……黙って出てきたの」 詞子が目を瞬かせる横で、雅遠が何か納得したように、大きく頷く。 「ああ、…

花嫁アンソロジー

「謙虚と卑屈は違います。前者は人を呼び寄せますが、後者は人を遠ざけます。玉座にお着きになったとき、周囲に心ある人がいなければ、あなたが手にされるものは権力ではなく孤独です。どうか、ご自分をお見下げにならないでください。あなたのためにも、こ…

桜嵐恋絵巻 〜暁の声〜

逃げられなくても、せめて、ここにいると伝えられればいいのに。 夢の中では、何度も雅遠に呼びかけた。 だが、夢は夢。 どれほど声をからしても、雅遠には届かない。 ……逢いたい。 会いたい。でも会えない。そんなふたりの思いが切ない。むしろ雅遠のほうが…

桜嵐恋絵巻 遠雷

……ああ、そうか。 相手のために、何かしたい。 どんなに小さなことでもいい。頼ってほしい。 互いに同じことを思い、望まれれば、持てる力のすべてで応えてきた。 でも。 「……結局、一緒にいられれば、それでよかったんだ」 ちょ、ここで終わるか!ああ、も…

桜嵐恋絵巻 ひととせめぐり

「詞子」 雅遠が、ひと言ひと言を刻みつけるように告げる。 「独りで泣くな。一緒に笑え。何があっても、側にいろ。俺が望むのは、それだけだ」 ツンツンな弟や妹がかわいいな。ようやく思いを決めた詞子とのやり取りが甘くて甘くて楽しい。そりゃこんだけ幸…

桜嵐恋絵巻 半分の秘めごと

「彼女と話したいことは、たくさんあります。……ですが、今夜は雅遠様と、一緒にいたいですから」 「……今夜だけか?」 「今夜も、です」 雅遠に縁談が持ちかけられるお話。秘められた恋は、こういうとき困りますね。断る気マンマンの雅遠の子供っぽさが楽しい…

桜嵐恋絵巻 火の行方

「……そなた、本当に欲がないな」 「え……?」 「幸せだって言ってくれるのはいいけどな。これで充分だとか思ってないだろうな?」 「……」 「俺は満足してないぞ。そなたにこんな、世間に隠れるみたいな暮らしをさせたままでいるんだからな」 雅遠お仕事始め。…

アラビアンローズ ルゥルゥの不運

「やはりきみは泣いていても可愛いが、そろそろ泣き止んで、もう少し詳しく話を聞かせてくれるかな」 「泣いてない……」 「……あまり説得力がないね」 「泣いてないの。……泣いてないんだからっ」 こんなベタなと思いながら、にやにやする甘いお話でした。→ 感想

桜嵐恋絵巻 雨ひそか

もしかしたら、雅遠様は、もう、ここには来られないかもしれないわね」 「えっ?」 「さっきの乳兄弟だという者。聞こえなかった?こんなところにいては、って言いかけたのよ」 「それは、あの」 「知っているのよ。……ここが、鬼の住処だということ」 甘いや…

桜嵐恋絵巻

「俺はそなたが好きだ」 にこりと、まるで無邪気に、雅遠が微笑む。 「この言葉も怖いか?」 「……」 「怖いと思うなら、仕方ない。でも、疑ったりはするなよ」 誤解から鬼と呼ばれた姫と、不器用さからぼんくらと思われた男の平安恋物語。甘くて素敵。 → 感想

舞姫恋風伝 〜花片小話〜

「それとも、私は添い寝させてもらえないか……?」 「……え……っと……」 返事に困って目を上げると、慧俊はとても楽しそうに、愛鈴を眺めている。 「寝顔、は……」 「ん?」 「……あんまり、見ないでください……」 主役、脇役、みんなが素敵なカップルになってまし…

舞姫恋風伝 〜花街の迷走〜

「……ね、彩菊。位が高いって、どういうことだと思う?」 愛鈴は立ち止まり、新米の侍女に微笑んだ。 「あのね、人より高い地位に立つっていうことはね、みんなが幸せに暮らせるように、それだけ周りをよく見て、よく知らなきゃいけないってことなの。威張っ…

アラビアンローズ ライラの受難

「……あなたって、ばかよ」 「かもな」 笑っているシャルディーンを見ていられなくて、ライラは背を向け、部屋を出ようとする。 「あなたなんて……大嫌い」 「いま、大好きって言ったように聞こえたぞ」 「……聞き間違いよ」 なんてお約束な。でもこういう甘い…

舞姫恋風伝 〜廃城の反乱〜

「……おまえの姉さんはね、修安。とっても幸せだったんだよ」 右目からひと筋だけ、涙が流れた。 「香泉」 「……はい」 「弾いて。……『雪月梅花』」 甘くて甘くてこそばゆくなる。でも、こういうベタな展開は好きなんです。→ 感想

舞姫恋風伝

あの夜、あなたに出会えた証しの梅は、ずっとずっと、わたしの支えでした。 また逢えるようになっても、こんな小さな枝のことなんて、もうお忘れかもしれないと、口には出せずにいました。 もしも、覚えていてくださったなら。 ……どうか、これだけわかってく…