氷室冴子
「やつは死ぬしかない。おまえがやつのものになれない限り、やつを死なせてやるしかないんだ、真秀。だれのせいでもない、同母の妹姫に恋をした、やつの罪だ!」 なんてところで終わるんだ……続きを読めないことが残念でなりません。→ 感想
「何を考えているんだ。どういうつもりなんだ。今日という今日ははっきりさせろ」 「わたしが考えているのは、速穂児。佐保彦の王子を裏切ることだ」 速穂児が息をのんだ。穂波は笑って、いいなおした。 「王子を裏切ってでも、手に入れるべき滅びの子の、死…
「これは罠だ。和邇か息長……日子坐か、美知主の……」 美知主が恐ろしい矢を放ったけれど、さすが佐保負けてない。駆け引きが生み出す緊張感が面白い。それにしても、嫉妬からどんどん愚かになっていく氷葉洲姫が、とんでもないことをしでかすな……知ったことで…
「今となっては、わたしもあなたたちと同じように、あの兄妹の扱いに手を焼くはめに陥っている。だが、わたしは殺せるんです」 「将軍、あなたは……」 「佐保彦の王子、あなたは殺せない。おそらく真澄さえ。だが、わたしは殺せる。真澄も……真秀も」 美知主も…
「あんたは佐保の王子だわ、佐保彦」 佐保彦がびくっと身をこわばらせる気配が感じられた。 「それに、あたしを憎んでいる。あたしが佐保の、滅びの子だから」 真秀はかまわず、いった。 「だけど、あたしはあんたが好きだわ」 小由流……憎しみの連鎖がやりき…
「忘れるな、真秀。ヒトはだれでも、われという名の領土をもっている。そこには王と奴婢が共棲みしている。みじめに生きるのも、誇りかに生きるのも、心ひとつだ。いのちある者はかならず死ぬ。だったら王として生き、王として死ね」 御影を見た佐保彦が抱い…
「王子は言葉とはうらはらに、人ひとり憎みつづけるだけの強さがない。佐保姫は、さらに憎しみとは無縁の姫だ。だから、俺がかわりに憎んでやるのさ」 「それむりだ、速穂児」 兄夏は、慰めるように呟いた。 「おまえがいくら心を添わせても、おまえは、王子…
「おまえ、あの王子が好きか」 真秀は目を見ひらいた。その言葉ははじめて聞いた言葉のようにうつくしく、耳に、心に染みこんできたのだ。 刺青の男は、唇のはしをゆがめて笑った。 「よしたほうがいい。それは禍つ恋だ。一族を滅ぼし、いのちを奪う恋だ」 …
「憎んではいけない、真秀。真澄は、あなたの魂に共鳴する。しかし、真澄は神々に愛された者だ。本来、憎しみとは無縁の者です。彼に、憎しみを覚えさせてはいけない」 日子坐の裏切りや御影との出会いなど、語られる過去の話が切ない。知ってしまったが故に…
「真秀とかいったな。二度と、おれの前をうろうろするな、殺されたくなかったら。おまえは滅びの子だ。禍つ子だ。闇と死を背負っている」 本人の意識は変わっていないのに、美しさが目立ち始めてきたことで、周囲の男たちの反応が変わっていく始まりは、ドキ…
「あそこはもう百年も二百年も昔から、同族としか結婚しない。一滴も、他の血をいれてない。いくらなんでも、血が濃すぎるさ……」 「血が……濃い?」 「ああ、だが美しい。男も女も、秋には金色の稲穂が波打つ佐保郷も。あれは、古いヤマトの神々が、とおい昔…
「やはり、あなたは川に落ちて、溺れかけても、生き返ってくるだけの姫ですよ。生きることだけを考えている」 「ええ、生きなければならないわ。人間は、どんなことをしても生きていけるわ。簡単に死ねるものじゃないわ。どんなことがあっても生きているはず…
「ひと芝居とは、瑠璃姫……?」 「あいつを締め上げて、反撃の糸口をつかむのよ。せっかくノイローゼになってるらしいから、ちょいと、物の怪を見てもらうわ。桐壺さまたちの恐怖を、味わわせてやる!」 死の直前からどうなるのか、はらはらドキドキで一気読…
「よぅし、だんだん気分がもりあがってきたぞー!」 「あのう、姫さま……」 「いまに、うごかぬ証拠を握って、生ぐさい野心をぶっつぶしてやる。そのときになって吠えヅラかくなよ、帥の宮!」 瑠璃姫が後宮に乗り込むお話。なんだかんだ、あきひめとはいいコ…
鷹男の帝の悪戯心にかくれて、あなたがなにを考えているのか。いったい、どういう人なのか。 幸うすく、いま、ようやく宮廷のひかりを受けて、遠慮がちに公達と交際している穏やかな、控えめな宮という外ヅラを、必ず、ひっぺがしてみせる。 この瑠璃を甘く…
「瑠璃姫、もう、いいですから、お帰りなさい」 負傷した守弥が瑠璃姫にお世話されるお話しと、小萩が瑠璃姫に仕えるお話し、瑠璃姫が吉野から帰京するお話しの三編収録。いやー、なるほどね、こういうことがあったのね。先に本編読んでしまっているからこそ…
かたかたという音とともに、格子が降ろされ、しだいに薄暗くなる部屋の中で、ぼくは青ざめ、わずかながら震えだしていた。 唯恵が生きていた!? 二巻と三巻の間、瑠璃姫が吉野へ行ってる間の高彬と守弥のお話し。面白かったのは守弥のお話しでした。若君大…
「こととしだいによっては、あたくし、瑠璃姫に、全面協力いたしますわ」 「全面協力って……」 「ウラがあろうと、なかろうと、帥の宮さまのお申し出は、ありがたいこと。ウラがあるなら、そのウラをかいてでも、あたくし、帥の宮さまの愛人の座に、駆けよう…
いやー、雨の降る五月のうす暗い申の刻に、女ふたりが楽しそうに呵々大笑してるってのも、よく考えると不気味だけれど、新婚ってこんなもんですよ。へへへへ。 そう。 あたしはとうとう、おさななじみの仲の右近少将、藤原高彬と、ひと月ほど前に結婚しちゃ…
「どうも放火らしいと専らの噂。そして、唯一焼け残った門柱に、呪詛状とおぼしき札が打ちつけられていたとか」 「なんと書いてあった」 「焼け残ったところだけで、よくわからぬながら」 使いの者の声が、一瞬、怯んだ。 「『瑠璃姫 怨』と読めると……」 思…
今はもう夜盗がどうのこうのという問題じゃなくて、ズバリ、入道一派が捕まらないことには、初夜は迎えられない、これが現実なんだわ。 「いいわ、わかった」 「わかったというと他言はしないとお約束するのですね」 「ええ、誰にも言わないわ。その代わり、…
「わたくしは男ですから……、姫にはなれません」 「そうだな。馬鹿なことを言った」 「でも、時々、姫として育ちたかったと思います。今となっては、それも夢ですが……」 弟の出仕がきまり、あっちこっちに気を遣うことになるお姉さんが大変だなと思いつつ、そ…
「あたしの元服って、どうして急にそういうことになったのよ」 「どうしてもこうしても、恐れ多くも当今さん直々のお声掛かりや。断るなんてことはでけへんやんか」 「当今って、もしかして主上?」 「もしかしなくても、主上や」 もうニヤニヤが止まらない…