犬村小六

とある飛空士への夜想曲(下)

「知ってるかな、ビーグル」 青年は空へむかい、届かない言葉を送った。 「あなたはぼくの憧れなんだ」 もう、じんわり涙が止まらない。国力の差は歴然としていて、どんな精鋭であったとしても物量には勝てず、ジリ貧とわかっていながら、それでも飛び続けて…

とある飛空士への夜想曲(上)

「任せておけ。大ヒットさせて、国民的歌手になる。そしたらタケちゃん、わたしに手が届かなくなっちゃうぜ!」 「おれは……この国の撃墜王になる。お前こそ…おれには会えなくなるぞ」 「うわ、言った。どっちが出世するか勝負だ。負けないぞ!」 空への憧れ…

サクラコ・アトミカ

「信じられる?」 「なにを?」 「ぼくと一緒に海へ行く未来を」 「信じられる」 サクラコは真面目に返事した。 「おんしと一緒の未来を」 作られた無敵の少年と、美しすぎる姫のボーイ・ミーツ・ガール。言葉を重ねるごとに思いが募り、心があることを実感…

とある飛空士への恋歌(5)

「クレアを取り戻したいんでしょ?」 「うん」 「その気持ちだけ持っていけばいいよ。その気持ちを世界中に伝えて。そうしたら絶対、世界が応えてくれるから」 じんわりじわりと目頭が熱くなる。胸の痛みを伴う別れと約束の笑顔の旅立ちを経て、辿り着いた世…

とある飛空士への恋歌(4)

みんな無事だろうか。誰も傷ついていないだろうか。後方索敵を任されるようだが、どうかつつがなく職務をこなせますように。 わたしはただそうやって、聖アルディスタへ祈ることしかできなかった。いま戦場の空を飛んでいるであろう同級生たちがひとりも欠け…

とある飛空士への恋歌(3)

「大丈夫、すぐ騎士団が来てくれるから」 「うん……がんばる。イスラのためだもんね」 彼女は決意を込めた表情で、彼を振り向いた。 ふたり、目を合わせて頷く。覚悟はできている。 大好きなイスラのために。 空を飛びたい、その思いだけでは許されない戦争が…

とある飛空士への恋歌(2)

そんなことがあってたまるもんか。 いくら神さまが残酷でも、なにも悪いことをしていないわたしに、そんな酷い仕打ちをなさるはずがない。 いくら神さまが残酷でも ― そんなふうに人の運命を意味なく弄んだりはしない。 初めてづくしのそわそわ感と気に掛け…

とある飛空士への恋歌

「わあ」 ふたり揃って思わず感嘆の声を上げた。 「わたしたち、雲のうえを走ってる!」 クレアが今日はじめて、はっきりした声でそう言った。 「すごいすごい、自転車で空飛んでる!」 面白かった!やっぱ空にはロマンがある。雲の間を走るシーンが1番好き…

レヴィアタンの恋人 4

「レヴィアタンの旗をフォックスが運んでくる」 「……おい」 「逃げないでキリヒト。もう一度翻すの、みんなと掲げたあの旗を」 「……おい!」 「誓いを忘れないで。近衛三兵団は永劫にレヴィアタンの旗のもとに」 タマの口が唖然とひらいた。なぜ三〇年前に交…

とある飛空士への追憶

「正念場です、お嬢様。敵は非常に手強いですが、共に乗り越えましょう」 「はい。共に」 生き残るのも共に。堕ちるのも共に。 これはすばらしきボーイミーツガール!ああ、空っていいなあ。 → 感想

レヴィアタンの恋人 3

「前へ」 傍らの牛丸へ、そう声をかけた。気弱そうな、憔悴した瞳がユーキを見上げる。 「前へ」 自分に言い聞かせるように、ユーキはもう一度同じ言葉を繰り返した。 前へ、前へ。おのれを哀れんで泣く暇はない。いまはただ、前へ。 戦闘シーンは圧巻でした…

レヴィアタンの恋人 2

ユーキの反応を楽しげに見下ろしてから、美歌子は我が子をあやすかのごとくユーキの体を抱き上げた。そして柔らかな口調で 「わたしを憎め。殺しに来い」 ユーキは泣きつづける。美歌子の言葉が届いていない。 「復讐を誓え。わたしを殺すために生きろ」 ラ…

レヴィアタンの恋人

「また会う」 励ましておこう。この子がこれからくじけることのないように。 「また会うよ。鉄橋で会う」 たとえ世界がけがされていても、この子が優しさを失うことのないように。 おお、これは楽しいお話でした。今月のガガガでは跳訳と並んでトップかな。→…