辻村深月
「式や披露宴は、する意味があることです。大勢の人の前で祝福され、幸せであることを見せる。そんなくだらないことを言う人たちにだって、見せつけてやりましょうよ。あれだけ大勢に祝われたのだから、という事実は、この先のあなたたち二人にとって、必ず…
「あのさ。自分が天才だって気がついたの、いつ?」 「天才?」 「うん」 田辺は私をじっと見据えた後で、ふいっと視線を空に向けた。 「へこましてもらいたいって思ったことない?」 「しあわせのこみち」の才能ある人たちの傲慢さと、まっすぐな思いに心が…
「覚えておいて。閉じ込められるのと、閉じ籠るのとは違うのよ」 響子が言った。 「太陽はどこにあっても明るいのよ」 高校卒業後、十年目のクラス会。女優となったクラスメートの存在が、かつてクラスの中心人物だった人たちの心を複雑にさせる展開が、何と…
アール。 口の先から吐く息が、空気に触れただけですぐに青白く変化する。 アール。 今どこで何をしているのかな。誰とも知れない男と寝たりしているのかな。言えた義理は何もないよ。ないけど聞いて。俺は君とまたここに来たい。 三年前に別れた女からの電…
「じゃ、聞きますけど、前の学校にはこんな話ありました?少なくとも、私が子供のころ実際に通っていた小学校には、こんなよくできた七不思議はありませんでしたよ。しかも『花子さん』ってトイレに出るのが一般的なのに、階段に出るなんて」 ホラーファンタ…
「先生?」 「今はまだ、そんな風に自分がなれるなんて想像もつかないと思う。なれるわけないって不安になるときもあると思う。でも僕は知ってる。今がどれだけおかしくても、そのうち、本当に自分でも驚くぐらい変わるはずなんだ」 俺は正面の窓ガラスを見…
「止められるかな」 私たちは本当に。 自信なく言うあすなに、天木の言葉は辛辣だった。 「できないと思う奴には、多分無理だ」 なんて素敵な仲間たちなんだろう。その繋がりの強さと思いの温かさに、涙が出る。→ 感想
「まぁ、それもそうだけど、それとはまた話が別でしょ?ともかく聞いちゃったんだから、だったら信じないと。一人だけで頑張るっていうのは、さすがに限界あるよ」 「頑張る?」 間の抜けた声で尋ねると、あすなは毅然と頷いた。まるで自明の理のように。 「…
「どうしよう、狩野さん」彼女が頭を抱えた。 「うちのお姉ちゃん、千代田さんのことが好きなんです。もうずっと、諦めてるけど」 「知ってるよ」 狩野は頷いた。深く、静かに、ゆっくりと。 「知ってるよ。僕らはみんな、知ってるんだ」 あーもう言葉がない…
「なんて名前にするの?」 「名前?なんの?」 「このアパートの。環のことだから、おしゃれな名前にするんだろうなって思って」 「ああ」 彼女が考えていたのは、ほんの数秒だった。 「『スロウハイツ』」 「スロウ?スロウってゆっくりのスロウ?」 「そう…
ふみちゃんは、ぼくと話ができなかった。ぼくのことを、見なかった。 器物破損で捕まった、市川雄太が壊したもの。 うさぎの身体とその命。 ふみちゃんの心。 大切なあの子のために「力」を持った少年が復讐を考える七日間。大傑作。 → 感想
留学がかかる選考の論文。 ほぼ確実といわれていたふたりを追い越したのは、匿名の人物「i」。 求めても探す事ができなかったその「i」から連絡があり、彼が浅葱の兄であることが発覚してから、その事件は起こった。 連続殺人として・・・。 ただ会いたいが…
大学受験が押し迫った雪の日、登校した生徒は8人。学校には誰もいなかった。その上、なぜか学校から出ることができない。やがて原因に思い当たる。つい数ヶ月前に自殺したクラスメイト。なぜか誰も顔や名前を思い出せない。ここは誰かの精神世界か? やがて…