妹尾ゆふ子

翼の帰る処3(下) 歌われぬ約束

「希望を持つのは、生者の特権なのです。昨日は過ぎ去ってしまっていても、まだ今日があり、明日がある。あなたは風霊ではない。日々の積み重ねが次へ繋がると、理解できるはずです。それが、生きるということです」 ヤエトさんがとてもたらしだった。隠居が…

翼の帰る処3(上) 歌われぬ約束

「時は流れて戻らない。形あるものは滅び、命あるものは死する。それはわかっています。ですが、それをそのまま忘れてしまうのは怖い。……ナグウィン殿、失うことを惜しむのは、恥ではないのです。わたしはそれを、王から教えられました」 雛鳥の可愛さとシロ…

翼の帰る処2(下) 鏡の中の空 ― THE HOME OF THE WINGS

「その孤独な景色にさす、一条の光とおなりください。凍えた心以外のものを写してさしあげる力を、お持ちください。鏡の外には生きた世界が、自由の空が広がっていることを、思い出していただくそのために ― どうか、変わらずに。それがいつか、兄君たちをお…

翼の帰る処2(上) 鏡の中の空 ― THE HOME OF THE WINGS

「それでも……どうか、ご自分のお信じになる道をお進みください。皆、それをこそ望んでおります」 恐れ多いお方の嫌がらせに吹いてしまいましたが、まさかの抜擢に苦労耐えないヤエトにニヤニヤがとまらない。まあその分、みんな過保護になってくれてますけど…

翼の帰る処(下) ― THE HOME OF THE WINGS

「身に余る光栄に存じます。しかし」 「謙遜は無駄だ。すでにそなたはやってのけた。無理ですとか駄目ですとか、許さんからな」 「ですが」 「わかった。問題を単純化しよう。そなたはわたしが嫌いなのか好きなのか、どちらなのだ」 離れていても感じる存在…

翼の帰る処(上) ― THE HOME OF THE WINGS

だが、恩龍の前ではどんな約束も意味を失う。 真実は、人には重過ぎる。 真実とは、神に属する力だ。人がそれを得ることは、恵みではない。 呪いなのだ。 超面白い!病弱な男の気苦労にニヤニヤがとまらない。聡明な皇女とのやり取りも素敵だけど、「歴史」…

鋼鉄三国志 呉書異説

「天命に甘んじられるのですか」 「……なに?」 「動かしてみようとは、思われぬのですか」 孫策は笑った。なんら曇りのない、それは心からの笑いだった。 「愚問。天命など、もとより信じてはおらぬ。それがそなたの言う英雄なのではないか?おのれの翼を信…

魔法の庭 3 地上の曲

「妾はそなたになんの保証もできぬ。妾はこの国を滅ぼすやもしれぬ、いや、きっとそうなろう。そのとき、そなたに後悔をさせとうない」 「私は信じます」 「なにを信じるというのじゃ。信じられるものなぞ、なにもない」 「姫様を」 「妾は信ずるにたる者で…

魔法の庭 2 天界の楽

「しかも、あれはもはや現身ではない。刃で斬っても意味はなかろうし、魔法で吹きとばしてもかならずよみがえる」 ゆっくりと持ち上げられた目蓋の下からアストラをみつめるその眼差しには、かすかに憂愁の色があった。 「……おまえは逃れることのできない追…

魔法の庭 1 風人の唄

「お主は知らんのだ。あの戦からこちら、春の訪れは年毎に遅くなり、冬の訪れは早くなっている。この土地は、凍っているのだ。ゆっくりと」 「そういうことだ」 「だから、氷姫の呪いをときに赴かねばならない」 「氷姫の……呪い?」 「知らぬのか?」 揶揄す…

パレドゥレーヌ 薔薇の守護

でもたぶん、自分ひとりではできない。エクレールに励まされ、アストラッドが引っ張ってくれ、ヴィンフリートに認めてもらって ― それでようやく前に進める気がする。 「私には、勇気をくれる人たちがいる」 つぶやいてフィーリアは目を閉じた。 「殿下」 「…

異次元創世記 赤竜の書

「おぬしも故郷をなくしたいのか?」 剣士の眼は真剣だった。 「おれは、おれのせいで人が道を踏み誤るのを見たいとは思わん」 「……あなたのせいじゃないです。ぼくは、……ぼくは、これで村に戻れなくなってもいいと思ってやってるんです」 「それが、おれの…

真世の王

「必要ならば、あなたの言葉を享けます。そうでなければ、わたしが生まれてきた意味がない」 「いい覚悟だ。だがね、生まれてくること自体に意味などない」 「でも、わたしは―」 「意味というのはね、生きることで自ら作ってゆくものだ。周りは関係ない、あ…