川口士

漂う書庫のヴェルテ・テラ(5)

「――めつけるな」 ジグウォルの声は低い。だが、発せられた言葉の帯びる熱は、こめられた意志は、ミルヴァのそれをしのぐものがあった。 「おまえが、聖堂が、人間を、書物を決めつけるんじゃねえよ。存在意義だ?そんなもん、すべての書物に等しくあるに決…

漂う書庫のヴェルテ・テラ(4)

「化け物?」 「違うな」 サリナの呟きを否定し、ルーグラムはばさりと翼を羽ばたかせる。 「天使だ。聖典に記されし神の下僕。神に選ばれた者だけがなれる、人間の上位に立つ聖なる存在だ」 神の話から一気にやってきたなー。聖堂が何を考えているのか分か…

星図詠のリーナ(3)

「標なき世界に印を見出し、道なきところに道を定める。それが海図です」 海図を学ぶ為、姉とピクラード王国へ。海の地図ということで、これまでと勝手が異なり、戸惑いながらも、多くのことを吸収していくリーナの姿が印象的でした。やっぱ彼女は動いてると…

桐野くんには彼女がいない!?

「康介。おまえ、いまいくつじゃったかな」 「十六だよ」 婆ちゃんは安心したのか厳しい表情を緩めた。 「おまえな、十八までに童貞を捨てなかったら死ぬぞ」 鉄道部といいながらゲームやラノベなどまったり遊ぶ部活でラブコメ模様が楽しい。部長に気がある…

漂う書庫のヴェルテ・テラ(3)

「……それが、おまえが書物を燃やす理由になるのか」 「なるとも」 パラセンダルは鷹揚にうなずいた。 「私は神を、地上に降臨させるつもりでいるのでな」 ジグウォルは不器用だなあ。でも、そんな彼だからこそ、慕う人たちも多いんだろうな。復讐の相手であ…

漂う書庫のヴェルテ・テラ(2)

「女王陛下、俺はいまの状態が気に入ってるんだ。起きたいときに起きて、寝たいときに寝る。食べたいときに食べたいだけ食べて、読みたいときに読みたいだけ読む」 「駄目人間ですね」 「まったくだ」 命のやり取りをしつつ、信頼関係が見えるから、なんかい…

漂う書庫のヴェルテ・テラ

「わかった。私が文字を教えてやろう」 「面倒くせえ」 「私が教えなくても、どうせ学ばなければならないぞ」 それに、とリシェルはずらりとそびえたつ書棚を振り返る。 「歴史は……私だってそれほど知っているわけではないが、ガルガンラウムやルードに勝る…

星図詠のリーナ(2)

「てめえに教えてやることがある」 どの方向だろうと、全力で飛び出せるように身構える。 「こいつはただの美人の王女様ってわけじゃない。よく食って、よく泣いて、よく笑って、あちこち歩きまわって地図を描くことが好きな、変わり者だが、おもしろいお姫…

星図詠のリーナ

「王女殿下がこの町にこられたご用向きは、王宮に献上するための地図作りのはず。ご好意で言ってくださったのでしょうが、地図など、そう必要なものでもありますまい」 それには反論しなければならないとリーナは思った。 「地図は、誰にとっても必要なもの…

ライタークロイス 5

「あなたは、身勝手すぎる」 肺の底から搾り出すような声を、イングリドは出した。 「私に頼むほど、あのひとを戦場から遠ざけようとしていたのに、巻き込んでおきながら」 「違うな」あっさりと、ファリアは否定した。 「あいつが言ってくれたのだ。私とと…

ライタークロイス 4

「……卿は」 ファリアはうつむき、白い指を伸ばしてカインの胸元をつかんだ。しがみつくように頭をカインの胸に寄せる。嗚咽にも似た声を、薄い唇から絞りだした。 「卿は、いつも、いるのだな」 ドレスの裾、膝あたりに滴が落ちて、小さな染みができる。 「…

ライタークロイス 3

だけど、、とカインは思う。歯を食いしばり、槍を握りしめる手に力を込めて。 それはできない。 騎士を目指している者として。 よりにもよって、この男に守られて。 逃げるわけにはいかない。 超面白かった!今、ファンタジアで一番好きかもしれない。 → 感想

ライタークロイス 2

「お詫びといってはささやかだけれど、この男を好きにしてかまわないわよ」 「……」 オームスは無言で頭を下げ続けているので、その表情はうかがいしれない。 「煮ても焼いてもかまわないわ。喰えないけど」 「喰えるかどうか以前に、師匠の友人という方にそ…

ライタークロイス

「何が気に入らない?イシュトーが、バラム家に対する債権者であるがゆえか?」 「それもありますが」 まず肯定し、 「眼。言葉。態度」 律儀に、そして嫌味に、イングリドは列挙する。 「率直に申し上げれば、あなたからの好意は銅貨の一枚であれ、お受けで…

戦鬼 ―イクサオニ―

あなたはお父さんの子で、お母さんの子だから。 言葉を思い出す。 あなたを好きになってくれる鬼も、人間も、きっといるから。だからあなたも、鬼も人間も好きになってほしいな。好きになった人たちと、幸せになって欲しいな。 また無邪気なことを言ってるよ…