秋田禎信
「……勝てねぇよ」 彼がつぶやくまでには、師のゴーストは消滅していた。 「先生は最初から最後まで不完全なただの人間だったさ。ゴーストじゃない。彼を理想型に仕立て上げていたのは俺たちだ。だが今の俺は先生の強さの限界を知っている。だから俺が後継者…
六人が死ぬ。 レティシャは胸中で、確認するようにつぶやいた。自分がその予定のひとりに含まれているのであれば、自分以外にあと五人。 (最接近領の領主のために働く白魔術師……にとって、邪魔者となるのは、わたしと十三使徒の三人……) あとのふたりは誰だ…
「事態は逼迫している。一部の者が、取り返しの付かない犯罪を犯そうとしている。まずは理解してくれ。今の生活が大事ならば、我々は仲間だ」 「と言いますと?」 「この大陸に、戦争が起こる」 ドラゴン種族にケンカを売ってる輩がさらに動き出すお話。十三…
「ったく、どいつもこいつも―」 吹き飛んだ部分まで盛り返そうと蠢く森をにらみ据えて、彼は叫んだ。 「俺の周りにあるもんを壊さずにゃいらねえってのか!?」 絶望的な中、クリーオウが動くと、思わず笑顔になっちゃうな。無茶苦茶だと思ったけど、そこを…
「それをなんと呼ぶか、知らないわけではあるまい?ライアン……少なくとも、選択ではないな」 ジャックは唇の上下をこすりあわせてから、重く感じる喉を震わせた。 「……決して、選択ではない」 繰り返してから、告げる。 「審判だよ」 みんな心にあるものを見…
「でも、それで人を傷つけてもいっていうんなら、そんなのはただの屁理屈だってお父様も言ってたわ。死ぬ時じゃなくて、正気の時にね」 「他人を傷つけることもなく、我を通すことができるとでも?」 「できるわ」 なにか意味もなく悔しくて、クリーオウはき…
「分かんねぇことだらけだな、この街は。東部は魔境―ホントかもしんねぇな」 何が起きているのかというもやもやがずっと続いてたけど、そういうことか。「エリス」を思うと、シーナの内面が感じられて、結末が切なくも狂おしい。→ 感想
「なんか俺の身体のどこかに、預金残高とかそーゆうのが書いてあるのか?」 「そうねえ、書いてあると言えば書いてあるのかも……」 「お師様の場合、哀愁とかがにじみ出てるはずのところから、貧乏臭さが散布されているのかもしれませんね」 「……」 「あ!で…
「聞きたい!?」 「ううんと……まあ……いや、でも、ちょっと待って。少し考えさせてね」 「聞きたいのね!?そんなに問いただされたんじゃ、話すしかないわ。ちなみに聞いたら共犯よ。だって聞いたんだもの」 「なんでっ!?」 つまらないわけじゃないんだけ…
―お許しを― それを聞いてから、また数秒ほどしか経っていない。その数秒の間に…… アザリーは、はっきりとほおがひきつるのを自覚した。噛みしめた奥歯が音を立てる。 彼女は剣を自分の足下に投げ捨てると、クオに向けて、呪詛のように叫んだ。 「殺した……わ…
「彼女に追いついたところで、どうしたいのか。なにか言いたいことでもあるのか。俺にはさっぱり分からない。彼女を助けたいのか。彼女の邪魔がしたいのか。それとも―」 「そんなの、決まってるじゃないですか」 朗らかに、マジクが言ってくる。 「姉弟なん…
「なんだかよく分からないけれど、いろんな意味で尊敬するわ、あなたのこと。ずっとこのままでいるんでしょうね。一生」 「同情はいらぬ」 「そんなっ!あなたから同情がなくなってしまったら、なにが残るというのっ!?」 なんてくだらない話……と思いながら、…
「違うさ。いつ死ぬのも同じなら ― いつだって死には抗ってなきゃならないってことだ。なにに替えても、俺は死なないさ。今だって、これほど死ぬのを怖がってる。キムラックに行くなんざ、狂気の沙汰じゃない」 オーフェンは肩越しにオレイルを見やると、拳…
「ですが、忘れないでくださいよ、コンスタンス様 ― 我が主、ボニー様は決してあきらめない方です。そして主人があきらめないかぎり、わたしもまた、あきらめません」 わはははは!と哄笑をあげながら、彼は、ぱっと背中を見せて走り出した。 「あきらめない…
「そう ― 取り壊されて、もう地上には存在していないはずなんだ。この、カミスンダ劇場は……」 毎度毎度クリーオウが美味しいところ持っていくなあ。「怒ってるんだからね!」で人形を倒せるのは彼女しかいないと思いました。まあ、その分ちょっとご都合っぽ…
「なら、今からお前が借りてみるか?」 「まあ今の様子を見てたら、なんとなく借りてあげたくもなるけど……」 と彼女は真顔で、ふとした疑問を口にした。 「貸すお金あるの?……って、ああ、ごめんなさい!泣かないでよ!ああ、よしよし。ほら、いつの日か、い…
「勝手な―ことを!」 彼女の姿がなくなってから、ようやくオーフェンは声を出して叫んだ。 「あんたが俺を理解なんてしているものか―人を理解する女が、人を殺すかよ!」 塔の抗争に巻き込まれるお話。なまじ敵を知ってるからこそ、恐ろしさも一塩だなあ。分…
「まあ、くわしくは言えないんだけどね」 「言えもしないものを運ばせたってわけかい」 「そうじゃなくて、言えもしないものを運ばれちまったのさ」 地人とドタバタするか、無能警官と事件を追うかのお話。ノリはいいけど、まあ普通。書き下ろしの塔時代のお…
「馬鹿な……嘘だ、あいつの顔 ―あれは―」 「……そう。あれは、あなたの顔よ、キリランシェロ」 答えたのは、いつの間にかオーフェンの背後まで来ていたレティシャだった。 「お帰りなさい、キリランシェロ。最悪のタイミングだけれど、歓迎するわよ」 牙の塔話…
「どの道、すべての計画のためには、魔術士は地上にいてはいかんのだ。二百年前の、人間の魔術士とウィールド・ドラゴンとの戦いが、なぜ起きたと思っている?」 「天人は、自分たちが滅びるのを、生き残る人間の魔術士に対して、嫉妬した……」 「はあはあ!…
「調子に乗るなよ。俺は本気だ。念のため言っておくが……」 目尻を吊り上がらせ、続ける。 「俺は怒り狂ってんだぜ」 オーフェンにはまだまだ過去があるみたいだなあ。禁忌があるからこそ必要以上に自分を戒めてしまうところがあるのかなと思ったり。普段おち…
「あなたに話すわ。だからお願い……約束して」 「なにをだ?」 オーフェンの問いに、彼女は真顔で答えた。 「今度こそ……わたしを見捨てていかないで」 魔術士を目の敵にする組織とか、六種族とか、今後を思わせるお話がてんこ盛り。天人の作った殺戮人形との…
「俺は……それができなかったから、落ちこぼれたんだ」 結構ストレートに話が進むなと思っていたら、最後にぐるっときて、おおっ。かみ合わない意見にもどかしさを覚えつつも、魔術士のプライドを忘れなかったオーフェンが良かった。→ 感想