上橋菜穂子

天と地の守り人 第三部 新ヨゴ皇国編

「これが、タルシュの枝国になった民の運命だ!異国で朽ち果て、鳥に啄まれ……」 チャグムの頬を、涙が伝った。 「なんのための死だ?いったい、なんのための死だ?」 ああ、もう。何度涙ぐんだことか。人の思いに胸がつまるばかりでした。最後までほんとうに…

天と地の守り人 第二部 カンバル王国編

「でもね、なにもかもを背負える人なんて、この世にはいないし、だれも傷つけず、だれにとっても幸福な解決なんてものも、きっと、この世には、ありはしないんだよ」 「……でも、おれは……そういう解決を、したいんだ」 ふたりで進むたびの険しさといったらな…

天と地の守り人 第一部 ロタ王国編

「その道に行っても、楽にはなれない」 チャグムは、気恥ずかしそうに顔をしかめて、その言葉を押し出した。 「わたしが背負っているのは、重荷じゃなくて……夢だから」 バルサの抱えるチャグムへの思いが、苦しいほどに伝わってきてたまらない。辿りつくまで…

獣の奏者 外伝 刹那

「わたしは……生まれてこなければよかったなんて、思わない。たとえ、生まれる前から、こんな人生を生きるのだと知っていたとしても」 すすりあげるように、息をふるわせていた。 「あなたは、自分の生に、後悔しかないの……?」 短篇集。どのお話も、ちょっぴ…

蒼路の旅人

「……生きのびてください。なんとしても」 胸がつまり、チャグムは祖父の顔から目を逸らした。 「お祖父さまも」 ここで終わるのか!罠と知りながら突き進んだ道で、まさに罠にかかってしまったわけですが、弱さを自覚しながらも諦めない決意をしたチャグムが…

神の守り人(下) 帰還編

「でもね……」 バルサは、掠れた声でいった。 「強くなっても、わたしは、救われはしなかったよ、アスラ」 ああもう大人ってヤツは……。たぶん、僕がバルサを好きなのは、人の思いを守ろうとするからだと思います。今回彼女の傷つき方は半端じゃなかったけれど…

神の守り人(上) 来訪編

「わたしの養父がいっていた。絶望するしかない窮地に追い込まれても、目の前が暗くなって、魂が体を離れるその瞬間まであきらめるな。力を尽くしても報われないことはあるが、あきらめてしまえば、絶対に助からないのだからってね」 その言葉よりも、バルサ…

虚空の旅人

「シュガ。ひとつだけ、約束してほしいことがある。 これからも、おまえがなにかの陰謀に気づいたとき、わたしを守るためにその真相を隠すことは決してせぬと約束してくれ。……陰謀の存在を知りながら、だれかを見殺しにするようなことを、決して、わたしにさ…

夢の守り人

「この<花>は、残酷な生き物だね、タンダ。人の夢をさそうなんて。こんな思いをさせるなんて。……おれ、夢をみずには……いられなかったんだよ」 人の夢を糧にする花に囚われたタンダを救いにいくお話。歌に惹かれてしまう心の隙間やトロガイの昔話など、様々…

闇の守り人

「あの子の用心棒をしているうちに、わたしは、ふしぎなことに気づいたんですよ。自分の命さえあぶない、恐ろしい仕事だったのに、チャグムを守っているあいだ、わたしは、幸せだったんです。……ほんとうに、幸せだった」 バルサは、かすかな笑みを浮かべた。…

精霊の守り人

「ジグロは、なんて?」 「いいかげんに、人生を勘定するのは、やめようぜ、っていわれたよ。不幸がいくら、幸福がいくらあった。あのとき、どえらい借金をおれにしっちまった。……そんなふうに考えるのはやめようぜ。金勘定するように、過ぎてきた日々を勘定…

獣の奏者(4) 完結編

「松明の火を想像してみて、ジェシ。松明の火は自分の周りしか照らせないけれど、その松明から、たくさんの人たちが火を移して掲げていったら、ずっとずっと広い世界が、闇の中から浮かび上がってくるでしょう?」 息子の頭に顎をのせ、さわさわと春風にゆれ…

獣の奏者(3) 探求編

「生まれて、死ぬまでのあいだに」 イアルの胸から、こもった声がつたわってきた。 「この十年があって、よかった」 闘蛇の生態を追うお話から、まさかこっちに話が飛ぶとは……ところどころで見える懐かしさや、母の人生を追いかけるシーンにぐっとなったけど…

獣の奏者(2) 王獣編

「でも、もし、そのわたしの判断が、彼らが信じているように災いを招く可能性があるのなら……」 声がかすれた。 「災いが芽吹いたとき、自分一人が命を捨てれば、それをくいとめられるのだ、と思うことができれば……わたしは自分の意志を貫くことができます」 …

獣の奏者(1) 闘蛇編

「エリン、おかあさんがこれからすることを、けっしてまねしてはいけないよ。おかあさんは、大罪を犯すのだから」 なにを言っているのかわからず、エリンは母を見ていた。 母は、微笑むと、エリンの頭を片手で抱いて、言った。 「生きのびて、幸せになってお…

狐笛のかなた

「門神だけでなく、多くの外神が、おまえのような霊狐が忍び込めぬように、あの屋敷を守っとる。なあ、野火よ、いくら、あの娘が恋しくとも、あの屋敷に、忍び込むのは、やめたがいいぞ」 「そんなつもりはない」 木縄坊は、葉をむき出して笑った。 「見守る…