杉井光

神様のメモ帳(8)

「なんのために?」 「なんのために、って」 「いや。すまない。これはなかば自問だよ。わからないんだ。ぼくらは今だれのために探偵をするんだ?」 四代目がメインとなるお話。繋がりのある短編集はコミカルなものからシリアスへと変わり……不器用な二人が、…

神様のメモ帳(7)

「僕は探偵助手で、アリスに雇われてるんだ。それよりも力強い事実は、……あんまり、存在しないんじゃないかな」 相手を思った行動が、悲しみを引き起こしてしまったという物語が、なんとも苦い。それでも死者を代弁するアリスの言葉が、痛くとも、前に進むき…

花咲けるエリアルフォース

戦争じゃなければ、どれだけいいだろう。そんなむなしい願いが、ぼくの目に映る桜色の景色の中をぼんやりと泳ぐ。 ただ気ままに空を飛んで、たまに花見をして、テスト勉強に汗して、桜の木の神様のお世話をして……そんな集まりだったら、どんなに楽しいだろう…

神様のメモ帳(6)

「ねえ、アリス」 「……なんだい」 「その。うまく言えないんだけど」 僕は目を開いて言葉を続ける。 「せめて僕といるときくらい、アリスが無防備でも大丈夫なように、なりたい、っていうか」 「な」 おそらくはと予想していた通りの結末は、何とももの哀し…

神様のメモ帳(5)

「でも、ナルミ。それは嘘とはいわない。それはね、『物語』というものだよ」 短編集。 スープ作りとストーカー、酒屋異物混入事件、誘拐、やくざと野球話が収録。天然ナルミの言葉に、真っ赤になって怒るアリスが可愛いったらない。そのアリスに対して、も…

さよならピアノソナタ encore piecs

「真冬も覚えてる?」 「……なにを?」 「いつ、どうやって直巳のこと好きになったのか」 「そ、そんなのっ」 ついに真冬は椅子から立ち上がってしまう。暖炉の前まで行ってかがみ込み、火に見入る。 「……忘れるわけない」 拍手してたらアンコールに出てきて…

剣の女王と烙印の仔(2)

「命運がなんだ。神々なんて勝手に喰らい合って勝手に滅びろ。わたしもシルヴィアも、クリスも、そんなものに踏みつけられるために生まれてきたわけじゃない」 どちらかというとシルヴィア側のお話がメインだったかな。彼女の支えになってくれる人がいそうだ…

神様のメモ帳 4

「いいんだ、ぼくだって、助手がいつまでも無能では困るからね。犬のしつけだと思って、何百回でも何千回でも同じことを教えるよ」 「がんばる……」 「どれだけ根を張り枝を伸ばし梢に言の葉を広げようと、ぼくの手が触れられる現実の世界は、ごくわずかだ」 …

剣の女王と烙印の仔(1)

「ずっとそばにいろって言ったのはだれだよ!」 「な、お、おまえ、さっきからっ、そんなこと言ってる場合かッ」 「僕は奴隷なんだろ。ミネルヴァのものなんだ。逃げるわけない。この先ずっと―」 吐き出した言葉は血の味がした。 「その死を、喰らってやる」…

さくらファミリア!3

ほんとの家族みたいだった、って? ほんとの家族でいいじゃないか。たったの二ヶ月だけれど、つまんないことで笑い合って、些細なことで怒って、一緒のことで泣いたじゃないか。 あんな哀しい笑い方が、最後に見たガブリエルさんの顔だなんて、そんなの― さ…

ばけらの!(2)

「ええと、ご飯置いとくよ」 「食べないからいい」 「あ、ごめん、もう食べちゃったの?」 「う、そ、そう、さっき―」というイヅナの言葉を遮って、ぎゅるぎゅるとお腹が鳴る音が聞こえた。「わわわわ」ドアの向こうでばたばたという気配。 「い、今のはニコ…

さよならピアノソナタ 4

「ナオは、ほんっとになんにも成長しないんだね」 「いいや。そうでもない」 笑うとき、やっぱり神楽坂先輩は千晶の方にだけ顔を向ける。 「ぐるっと一巡りして同じところに戻ってきたけれど、今はもう傷だらけで、かわりに自分の足だけで立ってるじゃないか…

さくらファミリア!2

「嬉しかった。あたしも、エリちゃんも、祐くんがしてくれたこと、嬉しかった」 ぼくは、すぐ真上にあるレマの目を見つめる。 「エリちゃんとわたしに分かれたまま、祐くんに逢えて、よかった。また最初から、こんどは二倍好きになっていけるもんね」 そろそ…

ばけらの!

「お、おまえ、ばかじゃないのか?そ、そんなのっ」 「ばかだから、小説家になったんだ。他に、なんにもできないから」 「そ、そんなばかな原稿、通るわけないだろ!編集部通ったって、う、売れるもんか!おまえがここまでばかだとは思わなかった!なに、な…

さよならピアノソナタ 3

「同士蛯沢は、『続けたい』と言ったんだ」 先輩がぼくの胸にとんと指先をたてる。 「それ以上に力強い言葉は、どこにも存在しない。本人がそう望んでいるなら、大丈夫。そのために我々はいつでも手を貸せる。なにがあっても」 ようやく二人の関係が始まりそ…

さくらファミリア!

「ルシフェルさま。家族の間で、いちばんの罪はなんだかわかりますか?苦労をかけることでも、迷惑をかけることでもないんです」 るーしーはべそをかいた顔のままガブリエルさんをじっと見つめ、やがて首を振った。 「いちばんの罪は、心配をかけることです…

神様のメモ帳 3

「僕が、強いんじゃないです。まわりにいつでも、誰か支えてくれる人がいたから」 「それでいいんだよ。運も実力のうちっていうだろ。あれは嘘だけど、こっちはほんとだ。仲間は実力のうち。それは、お前の世界の強さなんだから」 僕の世界の、強さ。 それも…

死図眼のイタカ

「我々は、殲滅機関です。護るのも、救うのも、我々の仕事ではない。それは―」 やがて彼は、ゆっくいrと手を引き、僕から離れた。膝から床に崩れ落ちそうになる僕の頭の上に、降ってくる言葉。 「― 君の仕事でしょう」 あー、痛い。予想できても、心の痛さ…

さよならピアノソナタ 2

「言葉じゃ、伝わらないなんてことはよくあるんだ」 哲郎の言葉に、ぼくは顔を上げた。 「おれの商売は、毎日それ確かめてるようなもんだよ。だって二百年も三百年も前に地球の裏側で、おれたちとは全然ちがう言葉使って、全然ちがう生活してたやつが ― 書い…

さよならピアノソナタ

「バンドがもしひとりの人間で。ヴォーカルが頭で、ギターが手。ドラムスが足だとしたら。ベースはなんだと思う?」 先輩は薄く笑って、それからすっとぼくに身体を寄せてきた。 「ここだよ、少年」 先輩の手のひらがぼくの胸に押し当てられる。 「心臓だ。…

神様のメモ帳 2

「きみは奇蹟を信じていないのかい?」アリスは笑う。 「アリスは信じてるの」 「もちろんだよ。奇蹟はだれにでも一度は起きる。だが、起きたことにはだれも気がつかない」 前作より面白かった!これは今後も期待ですね → 感想

神様のメモ帳

「どうしてニートになったのかなんて、訊くまでもない。そんなの、理由はひとつしかない。神様のメモ帳の、僕らのページにはこう書いてあるのさ。『働いたら負け』ってね。他に理由はない」 「……神様のメモ帳?」 「すてきなくらい無責任な言葉だろう?」 ア…

火目の巫女 巻ノ三

「……済まぬ」 やがて豊日が床に目を落とし、ぽつりと言った。 「なんであなたが謝る」 豊日は答えない。 伊月はおぼろげに、豊日の思っていることがわかる。 「国を造ったのはあなただし、わたしを連れてきたのもあなただけど、それがどうした」 迫力満点の…

火目の巫女 巻ノ二

「……どうして」 雨と注ぐ火の粉の中に立つ紅白の装束が、弓を握りしめた手が、賢しげな猫にも似たその瞳が、顔が、にじんで歪む。 「……どうして、あなたは」 言葉にならなくなった感情が火目式からあふれ出た。 ― どうして、わたくしの声を聴いてしまうのか…

火目の巫女

度迫力の第12回電撃小説大賞銀賞受賞作 → 感想