甲田学人

断章のグリム(15) ラプンツェル・下

『うふふ、責めてないわ。大切なものって、そういうものよ』 『誰もが持ってる大切なものは、そのために自覚的無自覚的に他のものを犠牲にして、その屍の重さでどんどん重くなっていくのよ』 『それで気づいた時には……もう重くて、両手から下ろせなくなって…

断章のグリム(14) ラプンツェル・上

「それで気が済むなら、恨まれてあげるのも<騎士>の役目だわ。そんなもの、私は気にならないから問題無い。恨んで、それを支えに生きていけるなら、そうすればいい。私が<泡禍>を憎んでそれを支えに生きているみたいに、同じようにすればいい」 「……」 …

断章のグリム(13) しあわせな王子・下

「<異端>はいつでもここにいるんだ」 神狩屋は、顔を伏せたまま。 「ここにいる僕らの誰がなっても、おかしくないんだ」 今回の惨劇はひどい。→ 感想

断章のグリム(12) しあわせな王子・上

「白野君……今、昔のトラウマに関わる夢を見たりとか、しなかったかい?」 「……!!」 「それはね、<断章>が、表層意識に浮かび上がってるんだ」 そう、神狩屋。 「しばらくは、できるだけ気を落ち着けるように気をつけた方がいい。君の心が不安定になると…

夜魔 ―怪―

「うん、あのね。小さい子供と一緒に眠るぬいぐるみさんはね、子供の見る悪い夢を食べてくれるんだよ」 私の問いに、少女は無邪気に微笑んで、まるでおどぎ話のような答えを口にした。 「だから小さい子達は安心して眠れるんだけど、ぬいぐるみさんのお腹の…

夜魔 ―奇

いいのか?死ぬぞ? 私は自身に問うた。 それでも…… 私はそれでも………… 私は、私は、それでも………… この、釣糸を、あの美しい瞳に…………差し入れる事を、欲していたのだ。 幻想的な世界を見てしまった人たちの恐怖がここにある。薄刃の描写は読んでる方が痛くな…

断章のグリム(11) いばら姫・下

『どう?あの<異端>と何度も対面したけれども、少しは彼女を理解できた?この悪夢の城の主、死なない<異端>のことを』 下巻でも芽がすごかった。ぞわぞわする嫌悪感と、絶体絶命の連続におなかいっぱい。解決編というか謎解き場面はもうちょっとスペース…

Missing(13) 神降ろしの物語・完結編

「逃げてくれ、綾子。でも今だけはここにいてくれ」 武巳は言った。 「今だけは逃げないでくれ。まだ……おれは近藤武巳だよな……?」 なにが一番怖いってやっぱり人の心ですよ。「42件」にゾクっとなった。うわ……。それにしても、なんとなーく、もやもやしたも…

Missing(12) 神卸ろしの物語

「本来人間はいかなる状況であってもオカルトを行動の原理にすべきではない。だが……」 「だが?」 「今回ばかりは、死地に向かうようなものだ」 電話って考えてみたら怖いよなあと思いましたが、それはともかく、魔女の本当の願いが見えてきて、武巳はアレさ…

Missing(11) 座敷童の物語・完結編

「かつて魔女狩り全盛の頃、このような言葉があったそうです。『魔女の言葉に、耳を傾けてはならない』と。私はさしずめ悪魔と取引した男のなれの果てといったところでしょう。あの魔女は、全ての怪異と共にある」 まさか、彼まで…。つい先ほどまで普通だと…

Missing(10) 続・座敷童の物語

「……それにな」 空目は、重ねて言った。 そしてその空目の言葉は、先ほどの俊也の一瞬の覚悟を完全に打ちのめした。 「仮に実行するとなると、その考え方は『黒服』と同じものだ」 ファスナーが開けられぬ!鏡の話との繋がりを見せながら、少なくともひとつ…

Missing(9) 座敷童の物語

「判らない?私は魔女でこの子たちは使徒なんでしょう?あなたが名付けてそう決めた。じゃああなたはどうするの?あなたは自分達を,どんな名で呼ぶの?」 「……」 皆が無言で空目を見た。 「魔女狩りだ」 怖いのに、見たくないのに、扉を開けてしまう真理にド…

Missing(8) 生贄の物語

「そうだ。あれは『警句』なんだ」 空目はそこで一呼吸置くと、皆を見て言った。 「彼女は『異界』を見るためにはああなる必要があるという『警句』だ。そして逆に『異界』に取り込まれると、ああなってしまうという、その『警句』でもある。彼女からは、い…

Missing(7) 合わせ鏡の物語・完結編

「これも仮定だが、この学校にはまだ複数の寄贈品が存在して、しかも何らかの怪談が付与されているぞ。美術室の鏡が作り付けだったことを考えると、学校の理事だった大迫栄一郎は校舎や備品などに関して相当深くまで関わっているようだ。何らかの意図か、そ…

Missing(6) 合わせ鏡の物語

もっと早く話しておけば良かったと後悔したが、もう完全に手遅れだった。 自分の感じた『鏡』への疑惑と確信は、結局話さなかった。 彼女が消えた今、話すタイミングとしては最悪だった。 最早、隠しとおすしかなかった。 文化祭の喧噪の中、絵と鏡が見せる…

Missing(5) 目隠しの物語

「言っとくが、とぼけるなよ?気づかないはずが無ぇだろ」 「……」 「空目相二。目隠しをされて、神隠しに攫われた子供。符合してるよな?お前の弟に。俺の考えは間違ってるか?」 クレヨンひとつでここまで怖くなるとは!音といい、ビジュアルといい、心理状…

Missing(4) 首くくりの物語・完結編

「もし日下部の純粋さが、無知でも無思慮でも欺瞞でもない本物だとしたら、それは問題だ。そのどれでもないとすれば、それは『狂気』に属するからだ」 狂気と触れているうちに、引きずり込まれそうになるあたりがヤバい。やはり一番は魔女か……。ぎくしゃくし…

Missing(3) 首くくりの物語

「何処へ戻るつもりなの?君たちは世界の本当の姿が見えてないのに、自分が何処へ戻ろうとしてるのか判るの?」 詠子は大きく両腕を広げる。言ってることは完全に意味不明だ。武巳は何も答えられない。 詠子はすう、と頭上を指さし、言う。 「戻る場所には気…

Missing(2) 呪いの物語

「ひとつ、忠告しておこうと思うの。『魔女』の、忠告だよ」 「な、何を……」 「『狗』に、気をつけて」 「……は?」 「あなたには『狗』が見えるよ。あなたは無数の『狗』にその身を喰われる事になる。だから、『狗』に気をつけて」 「狗」そのものよりも、少…

Missing 神隠しの物語

「知識は必要だろう?知識は運命に手を加える唯一の武器であり、方法だよ。『私』は君たちの『物語』に興味を持っている。君たちが自分の運命をどのような形で紡ぐのか、大きな好奇心をもって見ている。君は方法を知りたい、と言ったね。だから教えてあげよ…

断章のグリム(10) いばら姫・上

「<異端>……!?何で?殺したはずでしょう?」 『さあ?』 雪乃の疑問を、風乃はくすくすと嘲笑った。 『でも、これだけは言えるわ。本当の狩人なら他人が言う「殺した」なんか鵜呑みにしないで、自分の手で殺した死だけを、信用すべきじゃないかしら?』 生…

断章のグリム(9) なでしこ・下

そうだ、それでいい、私は人でなしだ。 一真が持っていたかなてこを見ていた時、彼女の中には改めての暗い喜びがあった。 ― これでこの<泡禍>は、自分のものになる。 最後を救いと見るか、それとも……。むしろ呪いのようにも思える残酷さ。ゾクゾクする。 → …

断章のグリム(8) なでしこ・上

「……あなたが死ねば、予言される<泡禍>が私のところに来るのかしら?」 「え?」「気にしないで。もしそうすれば叶うっていう確信があるなら、きっと私、白野君を殺すのを躊躇わないだろうなって、そう思っただけ」

断章のグリム(7) 金の卵をうむめんどり

『手首、切ったの。死のうと思って」』 『すごく痛くて、寒くて、ダルいんだけど、退屈でさあ……死ぬまでメッセージでも入れようかと思って。うん、退屈で』 『もう捨てるもの、ないしね……』 『っていうか、死ぬって寒いねえ。目の前も、なんか眩しいし……』 …

断章のグリム6 赤ずきん・下

「でもねえ、真面目な話をすると、一度<騎士>を始めたからには役目のために感性を殺さなくちゃいけなくなる小さなことがたくさんあるわ」 「……」 「役目を果たすために、本当に小さなことだけど、大切にしがみついてるものをポロポロポロポロと少しずつ崩…

断章のグリム? 赤ずきん・上

「あのね、行方不明になった女の子って、実はあの子のお友達らしいのよ」 「……」 「だから、どうもあの子ったら自分たちだけで解決しようと思っているらしいのね……だから私に何も教えてくれないし、私が調べようとするのも邪魔されて、この五日間に何が起こ…

断章のグリムⅣ 人魚姫・下

『生きるってことは〝炎〟だもの。炎は暖かいけれど刻々と揺らいで、ひと時も同じ形の時がない不安定なものよ。だからいつも同じだと思って触れようとしたら、火傷してしまう。冷たい〝死〟だけが、この世で唯一信用に足りるもの』 陶酔したように細めた目で…

断章のグリムⅢ 人魚姫・上

すでに限界を超えそうな緊張を恐怖が、体を芯から満たしていた。 恐怖に焼けて暗転しそうな意識と、痛みさえ感じるほど強張った身体。もういつまでも、このまま耐えられはしなかった。 ならば。 それならば ― 見てしまったほうが、楽になるのではないか? ず…

断章のグリムⅡ ヘンゼルとグレーテル

「それに、悲劇だわ」 「……悲劇、ですか?」 「そうよ。共感と拒絶なんて、生きている人間にとって呼吸のように当たり前の感情だわ」 「ああ……」 「聡い子みたいだから、もう自分でも気づいているかもしれないけど……」 そして女性は一拍置いて、言った。 「…

断章のグリムⅠ 灰かぶり

あなたにはこれから、私と一緒に来てもらう。そしてあなたにも、この〝世界の裏側〟の真実を知ってもらうことになるわ。そしてあなたは、戦わずに死ぬか、戦って死ぬか、どちらかを選ぶことになる。たぶん拒否権は……ないわ。 グリム童話をモチーフにしたファ…