野村美月

葵 ヒカルが地球にいたころ……(1)

言ってくれ。 頼むって、言ってくれ。 おまえがあきらめたら、葵はおまえの気持ちを一生知らぬままだぞ。 おまえがどんな目で自分を見ていたかを知らずに、愛されていなかった、仮の婚約者だったと、思い続けるんだぞ。 コミカルな感じではありますが、恋愛…

半熟作家と“文学少女”な編集者

「だって、快斗くんは、わたしの大事な作家ですもの」 楽しかったー。コミカルでさくさく読めるお話でした。俺様でお調子者な快斗が、気づいたら遠子先輩に乗せられて、これまで避けていた物事を経験して、物語を紡いでいく、その関係が良かったです。いくつ…

“文学少女”と恋する挿話集(4)

「で、あなたは恋をしたの?」 遠子の目が、甘く輝いた。 唇をほんの少しだけほころばせて―愛おしそうに、ささやいた。 「しています、ずっと」 短いながらもいろんな人の思いが見えて、それがまた切なさを呼ぶ、そんなお話しがたくさん詰まっていました。好…

“文学少女”見習いの、卒業。

わたしの初恋。 なんて、贅沢な片思いだったんだろう。 一番大好きな人の、あんなに近くにいられて、毎日、話をしたり視線を交わしたり、悩みを打ち明けたり、頭を撫でてもらったり。 何度も何度も、好きですと伝えられた。 あんな幸福な片思いなんてない! …

“文学少女”と恋する挿話集(3)

「なんだか頼りないし」 「そうなの、すぐに泣いちゃうから、目がはなせないの」 「優柔不断そうだし」 「いつもぐるぐる迷っているわ。だから、わたしまではらはらしちゃうの」 「意地悪だし」 「でも……ときどき優しいのよ」 短編集。ツンツンな心葉くんと…

“文学少女”見習いの、傷心。

「心葉先輩は、今でも素敵です」 「う〜ん、あたしから見るとまだまだね。自分の気持をもてあましてるところとか」 真貴先輩が意味ありげに、ゆっくりと言う。 「変わってしまうことを、怖がってるところとか」 側にいるのに届かない思いが、切なくてやるせ…

“文学少女”と恋する挿話集(2)

顔を上げると、森は夕日の中に溶けてしまいそうなほど、真っ赤になっていた。 胸の鼓動が、金の音のように大きく鳴り響く。 驚くオレの目を、恥ずかしくてたまらなそうにじっと見つめたあと、小さく笑って言ったのだった。 「……反町くんの下の名前、呼んでも…

“文学少女”見習いの、初戀。

「い、一年二組の日坂菜乃です……っ。わたしを文学部に入部させてください!わ、わたし、好きなんですっ!本が」 井上先輩は、目を丸くしていた。 こうしてわたしは正式な文芸部員になり、遅い初恋を自覚したのだった。 わたしがはじめて好きになった人、それ…

“文学少女”と恋する挿話集(1)

「ねぇ姫倉さん。前に、ドアを開けても、そこから出て行かないかぎり景色は変わらないって言ったでしょう?冬が終わるまで、部屋の中でじりじりしながら、無駄で退屈な時間を過ごさなきゃならないって。 けどね、わたしは、ドアのこちら側から外の景色を眺め…

“文学少女”はガーゴイルとバカの階段を昇る

「綺麗っ!すっごく可愛いわよ心葉くんっ」 「うぉ……っ。こりゃ凄いな……」 「井上君、本当に女の人みたいです……」 「た、確かに凄いね……」 そこには完璧な年上の女の人がいた。 「ぼく、今日ほど遠子先輩の後輩であることを後悔したことはありません……」 ど…

“文学少女”と神に臨む作家 下

そう、傍らで、祈るようにぼくを見つめている人が、教えてくれた。 強く打ち据えられ倒れるたびに、手を握り立たせてくれた文学少女は、真っ暗な世界にひそむ希望を、きらめくような言葉に変えて、ぼくに伝えたのだ。 本当の幸いは何なのか。―大切なのは手に…

“文学少女”と神に臨む作家 上

「井上の家に、行ってみたい」 「ぼくの?」 「だだだだだ、ダメだったら、いいんだけどっ。どーしてもってわけじゃないし。映画でも水族館でも、あたしは全然―」 くすりと、思わず笑いがもれる。 「いいよ。ぼくの部屋なんか、なにもないけど、それでよけれ…

“文学少女”と月花を孕く水妖

「夢は必ず覚めるわ。覚めなくていい夢もあると、鏡花は『夜叉ヶ池』の中で、晃の友人に語らせているけれど、どんなに願っても、夢は覚めるの。覚めない夢はない。けどね」 遠子先輩の声に、子供を励ます母親のような、ぬくもりがこもる。 「美しい夢は、目…

"文学少女"と慟哭の巡礼者

そんなことは、きっと不可能だ。ぼくらは簡単に、雨に負けるし、風に負ける。 負けたくないと願うのは、勝ってる人じゃない。 それを願う時点で、ぼくらはすでに不安に揺れ、負けている。 けれど、だから願うのだ。 闇の中でのたうちながら、叫びながら。 負…

神宮の森卓球場でサヨナラ

あなたは、卓球の神さまを知っていますか? あなたは、赤城山の卓球場を知っていますか? 涙涙の最終巻。素敵でした。→ 感想

あだたら卓球場決闘ラブソング

「あしたも卓球しよーね!あさっても、しあさっても、その次も、そのまた次の日も、すーっと、ずーっと、卓球しよー!」 卓球場シリーズ第三弾は朝香の恋物語。またまた泣かされてしまいました。→ 感想

那須高原卓球場純情えれじー

「会話って、とても大切なことよ、音々さま。いろんなひとたちと、いっぱい話をして。どんなことでもいいの。ごく普通の、たあいない、くだらないと思える話でもいいの。自分が感じたことを、自分の言葉で相手に伝えて、相手の言葉を心で受け止めて、また言…

赤城山卓球場に歌声は響く

「そんな……こいつらが、八戦死……」 「さぁ、これで、あたくしたちが赤城山の魔人と戦う大義名分は立ったわ!世界の平和のために力をあわせて魔人と戦いましょう!あたくしたちは愛と友情の卓球戦士よ!」 能天気な話だけど、最後のシーンに涙。→ 感想

“文学少女”と穢名の天使

きみが、ぼくに、教えてくれた。 琴吹さん最高!次は例の人か……怖くて怖くて楽しみです → 感想

“文学少女”と繋がれた愚者

本を閉じれば、物語は終わってしまうのかしら?いいえ!おれはあまりにも味気ない読み方だわ。あらゆる物語は、わたしたちの想像の中で無限に続いてゆくし、登場人物たちも生き続けるのよ。 わたしたちは、その物語を、明るい光に満ちたものにすることもでき…

”文学少女”と飢え渇く幽霊

「あのその……流人、心葉くんに変なこと言ってないわよね!」 「朝ごはんに『ぐりとぐら』を薀蓄垂れながら食べてるとか?」 「そ、そそそれはいいのよ……そうじゃなくてその……」 遠子先輩は月明かりでもわかるほど真っ赤になり、「なにも聞いてないならいいの…

“文学少女”と死にたがりの道化

もう小説なんか書けないよ〜とみっともなくべそべそ泣いて、登校拒否なんかもして父さんにも母さんにも妹にも心配をかけた。 本当に恥さらしな一年だった。 何故、ぼくが、再び書きはじめたのか。 それはあの日、シンと輝く真っ白な木蓮の下で、遠子先輩に出…