須賀しのぶ

神の棘(2)

「親父は形式だらけのカトリックを馬鹿にしていたが、あのときばかりは秘蹟に神を感じたと言ってた。怯えて泣いている子供には何を言うよりもただ抱きしめてやったほうがいい。それと同じだ。神の赦しだかなんだかわからんが、ただ行為そのものが、あんなに…

神の棘(1)

「SAより、SSのほうが恐ろしい。だが俺には、さらにあんたたちSDのほうが恐ろしく見えるね」 ベトケは息をついた。 「おまえさんの理性が、いつかおまえさんに復讐することがないようにと願うよ」 ドイツ共産党の生き残りを見つけ出し、カトリック教会を失墜…

惑星童話

「もう、考えるのはやめだ。ばかばかしい……そうだ、神じゃないんだからな。いくら考えても公開せずに住む方法なんて、誰も傷つかない方法なんてわからないし、たぶんあるわけないんだ」 光に近い速度により、浦島効果を受ける宇宙飛行士の孤独と不安を描くお…

女子高サバイバル 純情可憐編

あああ、ブルータスよ、おまえもか。 どうしてあたしの周囲には、こう普通じゃない、オタクな女ばかり集まるのだ。 しかもよりによって、この八重垣姫まで。 葉子に匹敵するほどブリザードな人だと思っていたのに。 新たな部員獲得と恋のお話しと。クールで…

女子高サバイバル

あたしは怒りに燃えつつ、ハーフラインに並ぶ。 くそー、負けてたまるか。 何があっても、ぜったい勝つのよ。 そうよ、試合なんて気迫よ気迫。ぜったい勝とうと思ったほうが勝つのよ! 銃撃ものかと思ったら、グラウンドホッケーものだった。熱血なんて面倒…

芙蓉千里

女将は改めてフミを見下ろした。我ながら、やきが回ったとしか思えない。 日本ならまちがいなく売れない娘だろう。しかしここは哈爾濱だ。何があるか分からない。ひょっとしたら、ひょっとするかもしれないではないか。 期待はしない。断じてしていないが、…

アンゲルゼ 永遠の君に誓う

「待てねぇよ!」 陽菜は腕に痛みを感じた。急に視界が暗くなって、ぬくもりに包まれた。抱きしめられたと理解するのに、数秒かかった。 「なんで駄目なんだよ。ここに、いんのに」 「お父さん」には不覚にも涙が出た。ああ、第二部とか出ないかしら。 → 感想

天翔けるバカ We Are The Champions

しかし、今の兄はただ痛々しい。あれほど空を愛し、飛ぶことを愛していたというのに。なぜあんなに辛そうな顔をして飛び続けなければならないのか。 答えは簡単だ。 これは戦争だからだ。 そして自分たちは、ただの消耗品だからだ。 戦争という悲しい物語の…

天翔けるバカ flying fools

「……なんか、バカみたいだなあ」 リックは自嘲まじりに笑った。あまりにも不毛で泣けてくる。 「そりゃそうだ。バカじゃなきゃやってられるかよ、こんなとこ」 戦いの中で、それでも尊敬の念を忘れない空を飛ぶものたちのお話でした。素敵なおバカさんだ! →…

ブルー・ブラッド 虚無編 下

「だか証拠が無い」 「そんなの、あなたならどうとでもなるでしょ。まったく、馬鹿なんだから」 毒づきつつも、顔は笑っている。ガラはヴィクトールの頬をつついた。 「でも、わかるわよ。いやなんでしょ。そういう形でユージィンを追い落とすのは」 「……」 …

ブルー・ブラッド 虚無編 上

そう、仕方のないことなのだ。ヴィクトールはまだまだ若い。ほんの子供なのだ。 だから本当は、今のうちにひねり潰してしまえばいいのだ。 あれは、いずれ最も手ごわい敵となるかもしれない。さっさと殺してしまえばいい。今の自分ならばたやすいはずだ。 (…

アンゲルゼ ひびわれた世界と少年の恋

「ダメかな。私は、リコがマリアになっても、生きててくれてよかったと思う」 「あのときとは状況が違う。園田さんは、自分に何が起きているのかわかんなかったんだ。だけど俺たちは、中室さんは、ちがう」 赤い目で、少しかすれた声で、湊は言った。 「人と…

ブルーブラッド 復讐編

これ以上、何かを望むのは馬鹿げている。僕はもう、あらゆるものをもっている。なんのために生きるのか、はっきりしている。これはなによりも幸せなことだ。そして、守るべきものもすぐそばにある。これも、やはりこのうえなく幸せなことだ。 だから、エーリ…

ブルーブラッド

答えは全て、出揃っている。しかし、彼は少しもそれに気づいてはいなかった。 いや、本当は何もかも気づいていたのかもしれない。彼の人一倍明確な理性は、すでに状況を正しく理解していたのかもしれない。 全てを承知で、答えから目を背けていたのかもしれ…

キル・ゾーンリミックス ジャングル・フィーバー

南国の陽光に銀のドレスをきらめかせながら踊っている軍曹を筆頭に、隊員たちは声援をおくり、ピンクラファエルも恥を忘れて「キャッスルすげー!」とポンポンをふりまわしていた。その横で、オリエンタルシドーは、控えめにポンポンを振っていた。 他のベン…

キル・ゾーン 地上より永遠に

「ば、ばかやろう、あんたがヘンなこと言うからじゃねーかよ!びっくりさせんじゃねー!」 「女の一世一代の告白をヘンとは何よ!?私、火星に戻ってきた日にも同じこといったでしょ?」 「そんなえらそうで何が女の一世一代の告白だよ?もうちょっとムード…

キル・ゾーン 反逆

「……母さんも?」 「グレイスは、とても苦しかったけれども自分を取り戻すためにはあれは必要だったと言ってくれたよ。そうして彼女が辿った途はあまりにも惨いものだったが」 オブライエンは顔を上げ、キャッスルを見つめた。 「苦しいならば、苦しみぬけば…

キル・ゾーン 罰

「それはそれで美しい愛情でしょう。ですが私は、それでも耐えられない。あなたを誰にも渡したくはありません」 ユージィンは体を離し、真正面からキャッスルの目を見つめた。 「レジーナ、私はあなたを愛している。誰よりも」 ちょ、てめ、ユージィン!と文…

アンゲルゼ 最後の夏

憐れみによりそうように、ふつふつと怒りが湧き上がる。 「どこかでこれを見ているんでしょう、敷島少佐」 陽菜は言った。 「許せない。命をなんだと思ってるの」 足掻いて足掻いて、覚悟を決めるたびに絶望が待ち受けてる展開にメロメロ。でも、乗り越えて…

キル・ゾーン 背信者

「彼ですよ」 彼女の胸中を読んだように、ユージィンは言った。 「え」 「私の息子です。彼は、私を恨んでいるのでね」 キャッスルは目を見開いた。ラファエルがこんなことを? 「まさか、そんな……」 まだまだユージィンのほうが何枚も上手か。よりによって…

キルゾーン 虜囚

「あのね、ラファエル」 周囲にあわせて、楽しげに踊っていた彼は、何、と目で促した。 「すごく大好きよ。ほんとうよ」 途端にラファエルは動きを止めた。大きく見開いた目で、じっとキャッスルを見ている。 「私はあんたが何をしても、あんたが好きよ。ち…

キルゾーン 来たれ、壊滅の夜よ

「どうして認めない……」 目を閉ざしたまま、彼はつぶやいた。 「おまえは、自分で思っているほど、できちゃいないんだ。認めれば楽なのに、なぜ認めない?」 エイゼンの荒みかたがつらい……。でも、あの時、手を差し伸べることができなかったからこそ、今度こ…

キルゾーン 宴

「そーかな……でも、ほんときれいだ。これからも、時々はそういうカッコ……」 言いかけて、ラファエルはふいに顔を歪めた。 「いや、やっぱダメだ。今のなし」 「なんで?」 「そういうのもすっげーきれいだけど、そうするとほかの奴らも、みんなキャッスルに…

キルゾーン 激突

「さあ、どうする。最後のチャンスだ」 従うか、死ぬか。 キャッスルもまた、折れた銃身を構え、にやりと笑った。 「選ぶのはただひとつよ。おまえを倒して生き延びる」 その方法しか知らないから。 そうやって、生きてきたから。 ようやくの再会でホッと一…

キルゾーン 異分子

「おまえが生きていると知ったら、どんなに喜ぶだろうね。はやく会いたいだろう?アンゲリカは、今もとてもきれいだよ。昔よりも美しくなったぐらいだ―」 囁く声に、ラファエルの頭は朦朧としてくる。昔見た母の姿だけが、彼の意識を埋めていく。 このとき、…

帝冠の恋

「なぜ、こんな形で出会ったのかしら」 ゾフィーはぽつりとつぶやいた。 「神は、フランツにあれほどの力を与えておきながら、なぜ幸福だけはあらかじめ奪いとっておいたのかしら。どうして、フランツと私を出会わせたのかしら」 ああ、もっと読みたかった!…

キルゾーン グッドモーニング・ボルネオ

自分は、いつだってこの地面に足をつけて生きてきた。空の魔力など知らないところで生きてきたから。 閉じた瞼の端から、透明な筋がこめかみへと伝い落ちる。 ティナは、右手をそっと腹部に押し当てた。 ― もっと、みっともなく振る舞える勇気がほしかった。…

キルゾーン 別れの日

「安っぽい正義感ふりまいてる場合じゃないでしょう。命が惜しくはないんですか!」 「惜しいわよ。でもね曹長、ここで尻尾を巻いて逃げたら、私は一生、死人同然の生活を送ることになるの」 キャッスルの目が見開かれる。グッドリーの真摯な表情がそこにあ…

キルゾーン 罪

冗談ではない、と思った。 サウルを失い、そして今キャッスルを失い、このままぼろ屑のように捨てられてもいいと言うのか。 すべてあの男の思い通りに奪われて、それでもいいと笑っていられるというのか。 エイゼンは激しい怒りに駆られた。 ―俺は、死にたく…

キルゾーン 罠

「あなたの言いたいことはわかってるわ。くだらない感傷だと言いたいんでしょう。それは一番よく私がわかっているのよ。オブライエン少将もアレクも、そうした感傷だけで動くほど甘い人間じゃないってことはね」 ひとつため息をつき、目線を落として彼女は続…