霜島ケイ
「あんたが言うほど、俺の主は子供ではない」 「――」 「神島にとってふさわしいとは思わない。だが、あんたは桐子にとって必要な人間だ」 桐子が自覚していくお話は、とても楽しかった。ていうか、幽霊の音吉さんが素敵すぎて、どうしようかと思いました。置…
「妖怪は、人間が怖くはないんですか?」 「そうだね。怖くないと言ったら嘘になる。でもアタシらは、人間とはずっとこういう関係でやってきたんだ。たしかに、人間とつきあうには覚悟がいる。でも、いったんこうと覚悟を決めちまえば、たいしたことじゃない…
「これ以上、乙夜に闇を喰わせるわけにはいかない」 したりとばかり、桐子は笑みを深くした。 「では、阻止してやろう。― この神国を護らんがために闇を祓う『戦いの行』。その大神業とやらをな」 まったく志郎は乙女心を知らないんだからと思いながら、素の…
「君にとって大切なこと。そこに近づくためのヒントを、ひとつだけ」 今までとは違う、柔らかな口調で。でも今までで一番意味のわからないことを、柊二郎は言う。 「君は『どうでもいい』という言葉を時々使うけど、『どうでもいい』と言われてかまわないも…
「君の配属先 ― 第十一騎士団が他の団から何と呼ばれているか、知っているかい?」 「なんて……?」 「セルフィア騎士団の落ちこぼれ」 思わずよろめきそうになった。 お、落ちこぼれ? ちょー楽しかった!変人ばかりが集まる騎士団に入った紅一点の苦労に笑…
「……あなたが」 「私が?何だ?」 桐子は笑んだ。くつくつと感情を見せぬ笑いが、声に混じり込む。 「おまえたちが必ず私のそばにいなければならぬとでも?自惚れるな。お前たちは私の使役だ。私が来いと命令したら来て、頭を下げろと言ったら下げろ、とこれ…
「そこが好きなら、いる理由なんてそれで十分よ。でも、ひとつだけ忘れないで。あそこは逃げ込む場所じゃないわ」 (……え?) 一瞬、息がつまった。 「空栗荘を君の逃げ場にしてはダメよ」 こちらとあちらの境界ですごしながら、太一が前を向き始める姿が印…
「覚悟のほどを訊ねているんだ」 神島の当主は、つんと顎をそらせた。 「後悔することになるかも知れぬ。それでもおまえは、この私を……裏切らぬと誓えるか」 ついに立ち上がる桐子様!かわいいよ格好いいよ。→ 感想
茶吉尼といわれる娘。 だが。 ―泣きそうに見えた。 あの屋敷で、当主が子供みたいにゲンコツをくらって、鬼に叱られて。 たとえ彼女にまつわる噂にすべてが事実なのだとしても。 あの時の桐子は、俯いてまるでどうしていいかわからなくて、今にも泣き出しそ…
「知らんでー。いつまでも返事せえへんのやったら、これから俺、おまえが一番嫌がる呼び方で呼んだるからなー」 返事はない。 聖はいたずらっ子のyほうにニンマリした。今回も自分の勝利を確信して、大きく息を吸い込むと、声を張り上げた。 「と、う、こ、…
「前言撤回だ。俺はつきあわねえよ。俺たちは正義の味方じゃねぇ。犠牲になるだの生贄になるだの、そこまでして他人さまの命を背負う義理はねえんだよ。佐穂子の言うとおり、こんなことで命を落としたら、ただの馬鹿だぜ」 「―」 「おまえも聖も、俺にとっち…
「さしたる覚悟もなく『本家』の前に立ちふさがった、そのことが何を意味するか知ってもらわねばね」 日本最高峰を誇る聖地も霊域も、おそらく土御門の裏の流派など歯牙にもかけていなかったのだろうが。 達彦は笑みを深めた。 「少しは後悔してもらおうか」…
「ねえ、待って。……ちょっと待ってよ。凶星を羅喉と呼んでいたのは、敵も味方も言霊を恐れていたからじゃなかったの!?」 「言霊は、おそらくそれほど重要な問題じゃなかった」 応じたのは弓生の、まるで抑揚のない冷ややかな声だった。 「我々はおそらく、…
「隆仁がおまえに何を言ったか、それでおまえがどうするかは、知らぬ。だが、かつて隆仁に言ったと同じことを、おまえにも言っておく。どんなかたちであれ、こうありたいと願う生き方があるなら、そのように生きろ。嘘をついても見栄を張っても、愚かだと思…
「まあ、なんにせよひとつだけ言えることは、だ」 三吾はタバコの煙を空に吹き上げると、熱のない声で言った。 「俺たちは神を相手に戦ってるってこった」 新宿の危機はあっさり終わったけど、燻る火は消えていない。っていうか、むしろやばいものがでてきそ…
「だけど今のままだったら、俺、すごく後悔する。何もしないで後悔するなんて俺、イヤだから。決めたんだ。」 「おい、成樹」 踵を返しかけて、成樹は最後に言った。 「まだ答えを聞いてないけど、あんた、本気で弓生や聖を殺したいのかよ?」 佐穂子がやっ…
「馬鹿な。御景のみならず、奈良の秋川家も神島には同意していないと聞く。そこまで破綻していながら、どうやって『本家』がふたたびひとつにまとまるというのだ」 「近いうちに『本家』の中でひときわ輝きの強い星がひとつ、堕ちます。それをきっかけに三つ…
「あまり人間を侮らないほうがいいですよ。神も魔性も、我々について知らないことはいくらでもあるんです。たとえばこの国の頂点にあるあの血族がこれまで続いてきたのは、単なる偶然だとでも思っているんですか?」 「――」 「神ですら抹殺し、利用し、神話…
「私は、おまえが嫌いだった」 ひそりと、秘め事でも囁くように。 「最初に会った時から、おまえの、その目が嫌いだった」 歴代の安部の当主を、鬼を使役し『本家』を率いた者たちを見つめてきた、その目が。 竜彦の眼差しを受け止め、見返し、弓生はやはり…
「それがこの国の重ねてきた歴史であり、この国の真実さ。この先も変わりようはない」 「――」 「気をつけるがいい。今回のことで、中央は明らかに鬼に恐怖した」 ついに完結な長野編。面白かったー。それにしても、またまた曲者が出てきてくれて、どうなるこ…
「俺らは平気やで。俺もユミちゃんも、こんだけ生きてきて、何が起こってもたいがいのことは平気なんや。そら誰かに守ってもらたら、嬉しいで。ラクやし、そんだけ誰かが、鬼の俺らのことを考えてくれるて思うたら、きっとええ気分や。けど、何度もいうけど…
「鬼がいたからこそ、かもしれんな」 「おったから?」 「わざわざ鬼のいない里と銘打って、この地はもう平和で安全なのだと先見に知らしめた。中央権力に抗う反逆者は、ここにはもういないのだとな。おそらく、時の権力者たちは、それをうのみにしただろう…
「だけど、頑張るんだから」 佐穂子はキッと顔をあげた。迷いない足取りで近くの駅に向かって歩き出しながら、決意をこめて呟いた。 「どんな鬼だか知らないけど、復活なんてさせるもんですか。私の力で、必ず封じてやるわ」 ここで終わるか!と悲鳴を上げた…
「未来がわかったところで、私にはどうすることも出来やしないんだ」 高遠は目を見開く。 遠い過去に聞いた言葉が、瞬間、泰親のそれに重なった。 言い回しも、意味する状況も、まるで違う。けれども。 そこには、同じ哀しみがひそんでいた。 ちょいとしんみ…
「同じことがあったら、また同じことをやっちまうと思う。俺が当主になっても、あんたを怒らせるか失望させるかだ。それでも、かまわないか?」 「最低の当主というのは、自分の命も守れず、ひいては家に仕える者たちも家そのものも守れない人間のことだ」 …
「じゃあ、次は私が、言いたいことを言わせてもらうわよ?」 「うん?」 「待ってるわよ。あんたが弓生も三吾も大丈夫だって言うなら、私もそれを信じるから、こっちで待ってる。――でもね。でも、もしも」 強い声だった。 「私でも助けになるなら、その時は…
「くそっくらえ」 ひっそりと、三吾は呟く。 遠野に行くことで、御景を去ったあとの七年という年月に彼自身が決着をつけることが出来るのか、どうか。そんなことはわからない。だが。 あんたは、俺の身代わりになるためにいるわけじゃない。 三吾なお話の上…
「桐子?」 「これが……最後だ」 ぽたぽたと涙をこぼしながら、桐子は小さく言った。 「もう、二度と、泣かぬ」 「――」 「私は神島の、当主だ。何があっても、……もう、二度と……」 素晴らしい。これほどの物語を読めるとは思ってもいませんでした。 桐子の物語…
すっと少女が動いた。座したままの弓生の前に立って。 顔を上げるより先に、振り上げた桐子の手が弓生の頬に閃いた。 ぱんっ。 聖が目をむき、弓生は殴られた頬にそっと指を滑らせた。 「私が当主でいる間は、二度と私以外の者に頭など下げるな」 毛の先ほど…
「……一人がイヤなら」 ふわりと雷電の髪が、月光を弾いて翻った。ともすれば聞き損ねてしまいそうな、低い囁きを残して。 「イヤなら――清明様の元へ来い」 そこへ行けば。 一人にはならずにすむのだと、言っているかのように……。 シリーズ9作目は番外編でし…