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マイナークラブハウスの恋わずらい ―minor club house Side-B

「そうして時折、中から響いてくる、楽しげな声を聞く。あの建物の中は、常に大騒ぎだ。いつでも、笑いの気配に満ちている。僕はその気配が好きだ。友人たちが遊んでいる声を聞きながら、少し離れたところで、自分の場所を守っている時が、いちばん落ち着く…

神の棘(1)

「SAより、SSのほうが恐ろしい。だが俺には、さらにあんたたちSDのほうが恐ろしく見えるね」 ベトケは息をついた。 「おまえさんの理性が、いつかおまえさんに復讐することがないようにと願うよ」 ドイツ共産党の生き残りを見つけ出し、カトリック教会を失墜…

想い雲 ― みをつくし料理帖

「化け物稲荷に、駒繋ぎが根付いたな」別れ際、男は何気なく言った。 「あれを見ると、どういうわけだか、お前さんを思い出す」 「牡丹でも菊でもなく、駒繋ぎなのですか?」 「その花は、いかなる時も天を目指し、踏まれても、自らを諦めることがない」 す…

花散らしの雨 ― みをつくし料理帖

「けどね、澪さん。恋はしておきなさい。どんな恋でも良いんです。さっきは心配だなんて言いましたがね、あんたならどんな恋でもきっと、己の糧に出来ますよ」 今回も美味しそうな料理ばかりですが、その料理を通して人の思いを描くからこのシリーズ好きです…

八朔の雪 ― みをつくし料理帖

― 安うて、美味しいて、みんなに喜んで食べてもらえるもんがええなあ。 何かを美味しい、と思えれば生きることができる。たとえどれほど絶望的な状況にあったとしても、そう思えばひとは生きていける。 幼い頃に両親を亡くし、大阪から江戸へ渡ることになり…

ずっと、スタンド・バイ・ミー(下) フルメタル・パニック!

『……千鳥かなめ、聞こえるか!?』 『……オープン回線で呼びかけている。返事ができないなら、聞いていてくれ!俺は来たぞ。すぐそこまで来ている!』 『俺は君を連れ戻しにきた。わかるか?連れ戻しにきた!』 涙が出ないわけがない。言葉にならない面白さでし…

とある魔術の禁書目録(21)

「……立てよ、ヒーロー」 一ページ目から一気に引き込まれた。それぞれ守る者のために戦う姿が格好いい。成長みえる一方通行や、まさかの第二王女にアックアさんと、読んでるだけでテンションあがりますが、一番すごかったのは、浜面さんです。ええ、さん付け…

ウィザーズ・ブレイン(6) 再会の天地(下)

「サクラもよく見ておくと良いよ。……この人は魔法士戦力なんか一切使わずに、自分の演説の力だけで、この状況を五分にまでひっくり返すつもりだから」 ニューデリーの未来を決する一日。マザーシステムの議論を目の当たりにして、錬を筆頭に目を逸らしてた人…

翼の帰る処3(上) 歌われぬ約束

「時は流れて戻らない。形あるものは滅び、命あるものは死する。それはわかっています。ですが、それをそのまま忘れてしまうのは怖い。……ナグウィン殿、失うことを惜しむのは、恥ではないのです。わたしはそれを、王から教えられました」 雛鳥の可愛さとシロ…

ウィザーズ・ブレイン(4) 世界樹の街(下)

「どうせどっちに行っても間違ってるんだったら、自分のやりたいことをやれ。自分が間違ってることを忘れずに、失敗しても言い訳せずに、それさえ守れればそれでいい……ずっと前に、真昼兄がそう言ってた」 金色の前髪をかき上げ、ゆっくりと顔を寄せる。 「…

ウィザーズ・ブレイン

「僕にできることは?」 「明日も、私と遊んでください」 「それだけ?本当に、それだけでいいの?」 「……本当は、もう一つ」 フィアはいつもと変わりのない、こぼれるような笑みを浮かべた。 「今ここで聞いたこと、私が話したこと……全部、忘れてください」…

ずっと、スタンド・バイ・ミー(上) フルメタル・パニック!

「状況は厳しいわ。作戦は困難だし、危機は重大だし、時間もたぶん足りなくなる。でも、実はもっとひどい、とにかく最悪の話があるの。なんだかわかる?」 「?」 「さあ……」 首をかしげる一同に、マオは言った。 「あんたたちが世界を救うってことよ」 ああ…

天冥の標(3) アウレーリア一統

「笑わば笑え、これはわれわれの意地だ。だがわれわれ<酸素いらず>はこの意地で宇宙に立っている。この意地あってこそ、連中に立ち向かうことができる。逃がすつもりはない」 面白い。冥王斑の話もあるけれど、それ以上にノイジーラントの人々と、アダムス…

ダン・サリエルと真夜中のカルテット 神曲奏界ポリフォニカ

「……なるほどな。音楽家にスランプの類はつきものとはいえ、話を聞く限り、相当重症のようだ」 「サリエルさまも強がってますが、内心は辛いと思います」 「ふむ。まあ、強がっている裡は、なんとかなると思うのだが……」 「でも、先生の場合、強がったあげく…

バイバイ、ブラックバード

「大人にはサンタクロースが来ないなんて、誰が決めたんだよ」 別れの「真実」を告げぬまま、五股男がそれぞれの女に別れ話を持ちかけるお話。出会いの話はどれも個性的でとても楽しく、それだけに別れ話が辛い。でも、酷い別れのはずなのに、どの人も最後に…

叫びと祈り

広大な砂漠の只中、斉木を含めたキャラバンの者しか通らない交易路の途上。バルボエ、カスラン、メチャボ、多数のラクダ、そして塩の山。それ以外、見渡す限り何もないことが分かる砂の海の中。 何者かとは、三人の中の、誰かでしかあり得ない。 エジプトの…

黄金の王 白銀の王

「死者のことばで生者を縛ってはいけない。生者のいる世は移り変わる。もはや変えることのできない死者のことばが、それを縛ってはいけないのだ。死者のことばに縛られず、生者がなすべきことなしていけば、何ごとも、きっと悪いようにはならない」 敵を滅ぼ…

メグル

「こういうのはね、ここいらでは『引く手』って言われててね。通夜の晩に引っ張っていっちゃうんですよ」 「なにをですか?」 「生きている人を、あの世にです」 表情は思いがけないほど真剣だった。 「だから、あなたには今夜一晩ここにいて、お婆ちゃんの…

トッカン 特別国税徴収官

逃げるな。諦めるな。最後まで、お前自身がオトシマエをつけろ! 「やります」 わたしは、言った。 これは、わたしの『仕事』だ。 トッカン付きの仕事だ。 面白かったー!税金を滞納する人から、徴収する特別国税徴収官のお話。滞納理由はいろいろあって、時…

スクランブル・ウィザード(7)

「確かに先生にはすごくご迷惑を掛けていますね、私。怒られるかも……いいえ、もしかしたら恨まれたり嫌われたりするかもしれません」 胸がちくりと痛んだ。 「でもね、私が私で居るということを最初に教えてくれたのは、先生なんです」 ああ、もう最高!大人…

ミストスピリット 霧のうつし身(3) 秘められし言葉

「今は理解できるように思う、ヴィン。きみがどんなふうに思ってきたのか。ある意味で、わたしたちはどちらもナイフだ。どちらも武器だ。お互いのためにではなく、この王国のために。人々のために」 一気読みするしかなかった。三すくみ状態が崩れてから、い…

電波女と青春男(5)

「せーしゅんって、なに?」 「お手軽な青春を体験したいなら、リュウシと転校生の関係に飛び込むことさ」 「うぉーい!リュウコやっちゅーになにを教えてるっちゅーに!」 「するとほーら、こうなる」 「これがせーしゅんかー」 「違うっちゅーに!」 たま…

丘の家のミッキー(1) お嬢さまはつらいよの巻

まだミシェールはやめなくてもいいのかもしれない。ミッキーと、未来と、ミシェールと、だんだんひとつにしていけばいいんだわ。 あたしは、あたし。 どこにいても、季節がいつでも、何を着ていても。 文化の違いにショックを受けて、始めは元の学校に戻りた…

身代わり伯爵の花嫁修業(1) 消えた結婚契約書

「!?な、なな何すんのっっ」 予想外のことに目をむいて見上げると、リヒャルトはその体制のまま目を合わせて微笑した。 「失礼、口がすべりました」 「どんなすべり方!?」 ちょーーーーーーーーーーーーーーーー楽しかった!っていうか、にやにやニヤニ…

六百六十円の事情

「なんだっけ。この間読んだ本の、高校生を象徴する表現って」 数歩、前へ走る。足音はトラックを回っていた亀たちより、わずかに軽い。 「そして、呼吸をする度に恋をする、だったかな」 すっごいよかった。これはいい入間人間!地域掲示板のトピックス「カ…

春狂い

「死にたい」 その四文字は、紛れもなく私の書いたものだった。ああ、と私は合点する。 ……そうか。私は死にたかったのか。 一編ごとに語り手が異なると思っていたら、実は繋がりのある六編でした。生まれながらにして人を狂わす美しさを持つ少女が、男達に穢…

夢の守り人

「この<花>は、残酷な生き物だね、タンダ。人の夢をさそうなんて。こんな思いをさせるなんて。……おれ、夢をみずには……いられなかったんだよ」 人の夢を糧にする花に囚われたタンダを救いにいくお話。歌に惹かれてしまう心の隙間やトロガイの昔話など、様々…

シャギードッグV 虹の幕間

「ということは……私が今していることは子守、ということか」 「あう、あー……まぁ、そう言えなくもねぇかな」 「ふん、何が『駆け落ちの相手を求む』だ!最初から子守を募集しておけばいいものを」 短編集。五編収録。一話目が素晴らしい。食えない小悪魔な天…

神去なあなあ日常

「山は近寄りがたくて恐ろしいばかりじゃない。だれも見ていなくても、こんなにきれいなものを、毎年ちゃんと実らせる」 都会から山奥へ。高卒男が林業を従事する村に放り込まれるお話し。面白かったー。はじめは脱走を考えるぐらいイヤイヤだったのに、山の…

船に乗れ!(1) 合奏と協奏

「私、誰に聴いてもらわなくてもいい」南はいった。「とにかく演りたい」 それは自分のヴァイオリンにプライドを持っている、一人の音楽家の言葉だった。僕はその力強さに打たれた。 「うん演ろう」僕はいった。「とりあえず明日から、二人で合わせてみよう…